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成年後見人、誰に頼む?弁護士・司法書士・社会福祉士の違い
「誰が後見人になるか」で相続手続きは大きく変わる
親御さんの判断能力に少しずつ変化が見られ、「そろそろ成年後見制度を考えないと…」と思ったとき、多くの方が最初にぶつかるのが「誰に頼めばいいの?」という壁ではないでしょうか。
近年、ご家族の負担軽減や財産管理の透明性を確保するため、家庭裁判所が弁護士や司法書士といった専門家を「専門職後見人」として選任するケースが増えています。
しかし、いざ専門家を探そうとすると、
- 「やっぱり弁護士さんじゃないとダメなのかな?」
- 「司法書士や社会福祉士では何が違うんだろう?」
- 「うちの状況に一番合っている専門家は誰?」
といった素朴な疑問が次々と浮かんでくるはずです。
特に、将来の相続を見据えた場合、後見人に就任する専門家の得意分野によって、手続きの進め方や、ひいてはご家族の未来が大きく変わることも少なくありません。
この記事では、相続の専門家である司法書士の視点から、弁護士・司法書士・社会福祉士それぞれの特徴と違いを徹底的に比較解説します。最後までお読みいただければ、あなたのご家族にとって「本当に頼りになるパートナー」は誰なのか、その答えがきっと見つかるはずです。
成年後見人に求められる2つの役割と相続時の課題
専門家の違いを理解する前に、まずは成年後見人の基本的な役割を整理しておきましょう。後見人の仕事は、大きく分けて2つあります。
- 財産管理:ご本人の預貯金や不動産などを適切に管理し、生活費や医療費の支払いなどを行います。
- 身上監護(しんじょうかんご):ご本人が安心して生活できるよう、住環境の整備や介護・医療サービスの手続きなどを支援します。
後見人はこれらの業務について、定期的に家庭裁判所へ報告する義務を負います。しかし、ここに「相続」が絡んでくると、業務の難易度は格段に上がります。
例えば、ご本人が相続人の一人となった場合、後見人は本人に代わって他の相続人と遺産分割協議に参加しなければなりません。協議がまとまれば、不動産や預貯金の名義変更手続きも必要です。特に「居住用不動産」の売却など、ご本人の生活に大きな影響を与える処分行為には、事前に家庭裁判所の許可が必要です。
このように、相続が発生すると、後見人には日常的な管理業務に加え、高度な法律知識と実務経験が求められるのです。だからこそ、「どの専門家に任せるか」が極めて重要になります。成年後見制度の全体像については、成年後見をご検討中の方へで体系的に解説しています。
【専門職別】成年後見人の違いを徹底比較
それでは、具体的に弁護士、司法書士、社会福祉士の違いを見ていきましょう。それぞれの専門家がどのようなケースで強みを発揮するのか、ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
弁護士:相続トラブル・紛争解決のプロフェッショナル
弁護士が後見人になる最大の強みは、なんといってもその「紛争解決能力」です。
強み
相続人同士の仲が良くない、あるいは過去に金銭トラブルがあったなど、将来的に「争続」へ発展する可能性が高いケースでは、弁護士の存在が非常に心強くなります。代理人として他の相続人と交渉したり、万が一、遺産分割調停や訴訟に発展した場合でも、そのまま手続きを進めることができます。
注意点
紛争の可能性が低いケースでは、日常的な財産管理業務に対して、ややオーバースペックと感じられるかもしれません。
向いているケース
- すでに相続人同士が揉めている、または対立が予想される
- 遺産の使い込みが疑われるなど、法的な調査や請求が必要になる可能性がある
- 相続不動産の評価額などで意見がまとまらない可能性が高い
司法書士:不動産相続と財産管理実務の専門家
実は、専門職後見人として最も多く選任されているのが司法書士です。その背景には、相続手続きとの親和性の高さがあります。

強み
司法書士の最も得意とする分野は、不動産の名義変更(相続登記)です。相続財産に不動産が含まれる場合、遺産分割協議から登記申請までをワンストップで、かつスムーズに進めることができます。また、預貯金や株式の名義変更といった煩雑な手続きにも精通しており、財産管理の実務を「止めずに着実に進める」という視点を持っています。
注意点
司法書士が依頼者の代理人として対応できる紛争手続には制限があり、法務大臣の認定を受けた司法書士であっても、簡易裁判所で取り扱う訴額140万円以下の民事事件等に限って代理できるのが原則です。そのため、相続人間で深刻な対立が生じ、調停や訴訟に発展した場合には、弁護士との連携が必要になります。
向いているケース
- 相続財産に不動産(ご自宅やアパートなど)が含まれている
- 相続人間の関係は比較的良好で、手続きを円滑に進めたい
- 紛争予防を重視し、実務的な手続きを確実に行ってほしい
社会福祉士:本人の生活を守る「身上監護」の専門家
社会福祉士は、法律の専門家である弁護士や司法書士とは異なり、「福祉」の専門家です。
強み
最大の強みは、ご本人の生活に寄り添う「身上監護」です。介護サービスの利用契約や施設への入所手続き、医療機関との連携など、ご本人が尊厳ある生活を続けるためのサポートを得意とします。ご本人の心身の状態を深く理解し、きめ細やかな配慮ができるのが特徴です。
注意点
相続手続きや不動産登記といった法律・登記実務は専門外です。そのため、相続が発生した場合には、別途、司法書士や弁護士に依頼する必要があります。財産状況が複雑な場合、後見人としての業務範囲に限界が生じることがあります。もし財産状況が不明瞭な場合でも、後見制度の利用自体は可能ですが、専門家との連携は不可欠です。
向いているケース
- 財産が預貯金のみなど、比較的シンプルである
- 介護や医療の必要性が高く、生活面でのサポートを重視したい
- 相続人がいない、または相続手続きが単純明快である
【比較表】弁護士・司法書士・社会福祉士の違いが一目でわかる
ここまでの内容を一覧表にまとめました。ご自身の状況と照らし合わせ、どの専門家が最もフィットするかを考える参考にしてください。
| 弁護士 | 司法書士 | 社会福祉士 | |
|---|---|---|---|
| 得意分野 | 紛争解決・交渉・訴訟対応 | 不動産登記・財産管理実務 | 身上監護・福祉サービス連携 |
| 相続手続きへの強さ | ◎(特に紛争時) | ◎(特に不動産あり) | △(専門外) |
| 紛争対応力 | ◎(制限なし) | △(140万円まで) | ×(対応不可) |
| 向いているケース | 相続トラブルが懸念される場合 | 不動産があり、手続きを円滑に進めたい場合 | 生活支援が中心で、財産がシンプルな場合 |
家庭裁判所はどのように専門職後見人を選ぶのか?
ここで一つ、重要な点をお伝えしなければなりません。それは、「最終的に誰を後見人に選任するかは、家庭裁判所が決定する」ということです。
申立ての際に「〇〇先生を後見人候補者とします」と希望を伝えることはできますが、その通りになるとは限りません。
家庭裁判所は、以下のような事情を総合的に考慮して、ご本人にとって最もふさわしいと判断した専門家を選任します。
- 本人の財産状況:不動産の有無、預貯金の額、負債の状況など
- 親族間の関係性:相続人間の対立の有無、協力体制が築けるかなど
- 本人の心身の状態:必要な医療や介護の内容、生活環境など
例えば、相続財産に不動産があり、相続人間の関係も良好であれば司法書士が、逆に関係が悪化し紛争の恐れがあれば弁護士が選ばれやすい、といった傾向はあります。また、ご家族が後見人になることを希望しても、財産が多い場合や親族間に対立がある場合は、監督役として専門職後見人が選ばれることもあります。親族後見人(なれる条件と手続き)については別の記事で詳しく解説しています。
参照:裁判所|成年後見人(保佐人、補助人)、未成年後見人の選任
【司法書士の実例】後見人の選任が相続の行方を左右したケース
後見人選びがいかに重要か、私が実際に経験した事例をご紹介します。これは、ご依頼者様の未来を真剣に考えた結果、あえて私(司法書士)ではなく、弁護士を後見人候補者として推薦したお話です。
ご相談の背景
Aさんの三男の方から、「認知症が進行した父のために後見制度を利用したい」とご相談がありました。Aさんには長男、二男、三男の3人のお子さんがおり、長男がAさんと同居していましたが、Aさんが施設に入所。その後、三男の方がAさんの預金通帳を確認したところ、残高がほとんどなくなっていることに気づきました。長男を問い詰めても、はっきりとした答えは返ってきません。司法書士としての判断
当初、三男の方は、相談を通じて信頼関係を築けた私を後見人候補者として申立てをしたいと希望されました。しかし、私は状況を冷静に分析し、ご家族の未来にとって最善の選択肢は何かを考えました。このケースの最大の問題点は、「長男による預金の使い込み疑惑」です。もし使い込みが事実であれば、Aさんの財産を取り戻すために、長男に対して不当利得返還請求訴訟など、法的な手続きが必要になる可能性が非常に高い状況でした。
このような紛争対応は、司法書士の業務範囲を超えてしまいます。そこで私は三男の方に、「このケースでは、訴訟まで見据えて動ける弁護士の先生が後見人になるのが最も適切です。家庭裁判所も、おそらく同じ判断をするでしょう」と正直にお伝えしました。
結果
ご説明に納得いただいた三男の方へ、私が信頼する弁護士の先生をご紹介し、その先生を後見人候補者として申立てを行いました。結果的に、その後の手続きはスムーズに進み、ご家族は安心してAさんの将来を任せることができました。
この事例からわかるように、大切なのは「どの資格か」という形式ではなく、「ご家族が抱える問題の”本質”を解決できるのは誰か」という視点です。私たちは、目先の業務だけでなく、その先にあるご家族の幸せまで見据えて、最適なご提案をすることを信条としています。
後見制度の前に検討したい生前対策
ここまで成年後見制度について解説してきましたが、この制度はあくまでご本人の判断能力が不十分になった後の「最終手段」の一つです。
もし、親御さんにまだ十分な判断能力が残っているのであれば、よりご本人の意思を反映させやすい、他の選択肢を検討することもできます。
- 遺言書の作成:誰にどの財産を遺すかを明確にし、将来の相続トラブルを防ぎます。
- 任意後見契約:将来判断能力が低下したときに備え、あらかじめ自分で後見人を選んでおく契約です。
- 家族信託:元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理・処分を託す契約です。
これらの生前対策は、ご本人の「想い」を未来に繋ぐための有効な手段です。特に遺言書の作成は、円満相続の第一歩として非常に重要です。どの方法が最適かはご家庭の状況によって異なりますので、早めに専門家へ相談することをお勧めします。
まとめ:最適な後見人選びは、円満相続への第一歩です
今回は、成年後見人として選ばれる3つの専門職、弁護士・司法書士・社会福祉士の違いについて解説しました。
結論として、どの専門職が一番優れている、ということはありません。大切なのは、ご本人の財産状況、ご家族の関係性、そしてご本人がどのような生活を送りたいか、といった様々な要素を総合的に考えて、最適なパートナーを選ぶことです。
- 紛争の火種があるなら、弁護士
- 不動産があり、円滑な手続きを望むなら、司法書士
- 生活支援を最優先に考えたいなら、社会福祉士
これが一つの目安になるでしょう。
成年後見人の選任は、単なる財産管理の手続きではありません。それは、ご本人の穏やかな晩年を守り、そしてその先にある「円満な相続」を実現するための、極めて重要な第一歩です。
「うちの場合はどうなんだろう…」と一人で悩まず、まずは専門家の話を聞いてみてください。それが、後悔しないための最も確実な方法です。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
遺言書の作成費用はいくら?専門家が費用を抑える方法を解説
遺言書作成の費用、総額はいくら?2つの方式を徹底比較
「家族のために遺言書を準備しておきたいけれど、費用がどれくらいかかるのか分からなくて…」と、一歩を踏み出せずにいませんか?大切な想いを形にする遺言書ですが、作成方法によって費用は大きく異なります。
遺言書には、主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。ご自身で手軽に作成できるものから、専門家である公証人が関与して確実性の高いものまで、それぞれの特徴と費用を正しく理解することが、あなたにとって最適な選択への第一歩です。
この記事では、司法書士として数多くの遺言書作成をサポートしてきた専門家の視点から、それぞれの費用相場、メリット・デメリット、そして費用を抑えつつも確実な遺言書を作成するためのポイントを分かりやすく解説します。この記事を読めば、費用への不安が解消され、ご自身の状況に合った遺言書の作成方法がきっと見つかるはずです。生前対策の全体像については、生前対策は何から始める?専門家が教える全体像と手順で体系的に解説しています。
【早見表】自筆証書と公正証書の費用・特徴比較
まずは、2つの遺言書作成方法の違いを一目でご理解いただけるよう、比較表にまとめました。

| 項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成費用(実費) | 0円〜(法務局保管制度利用時は3,900円) | 数万円〜(財産額により変動) |
| 法的な確実性 | △(形式不備で無効になるリスクあり) | ◎(公証人が作成するため、ほぼ無効にならない) |
| 作成の手間 | △(全文自筆、要件が厳しい) | ◎(公証人が作成、本人は署名・押印のみ) |
| 死後の手続き(検認) | 原則必要(相続人に手間と費用がかかる) | 不要(相続手続きがスムーズ) |
このように、作成時の費用だけを見れば自筆証書遺言が圧倒的に安価ですが、法的な確実性や相続開始後のご家族の負担まで考慮すると、公正証書遺言に大きなメリットがあることが分かります。
専門家(司法書士)に依頼した場合の費用相場
ご自身で手続きを進めるのが不安な場合、司法書士などの専門家に作成サポートを依頼することもできます。費用は事務所によって異なりますが、一般的な相場は以下の通りです。
- 自筆証書遺言の作成サポート:10万円〜20万円程度
- 公正証書遺言の作成サポート:8万円〜15万円程度
当事務所では、お客様に安心してご依頼いただけるよう、明確な料金体系をご用意しています。
- 自筆証書遺言サポート:110,000円(税込)
- 公正証書遺言作成サポート:88,000円(税込)
※公証役場の手数料、証人の日当は別途かかります。
弁護士や信託銀行に依頼すると報酬が数十万円から百万円以上になるケースも少なくありません。司法書士は、相続手続き全般の専門家として、比較的リーズナブルな費用で質の高いサポートを提供できるのが強みです。
費用を抑えたいなら「自筆証書遺言」|ただし注意点が…
「とにかく費用をかけずに遺言書を作りたい」という方にとって、自筆証書遺言は魅力的な選択肢に見えるでしょう。しかし、その手軽さの裏には、残されたご家族に思わぬ負担をかけてしまう可能性が潜んでいます。
メリット:費用はほぼゼロ、いつでも自分で作成できる
自筆証書遺言の最大のメリットは、何と言ってもその手軽さと費用の安さです。紙とペン、印鑑さえあれば、費用は一切かかりません。思い立った時に、誰にも内容を知られることなく、ご自身のペースで作成できるプライバシー性の高さも特徴です。
デメリット:無効リスクと死後の「検認手続き」という負担
費用がかからない一方で、自筆証書遺言には看過できないデメリットが存在します。
第一に、法律で定められた形式を守らないと無効になってしまうリスクです。例えば、日付の記載がない、本文が自筆でない(代筆や本文のパソコン作成は不可)、署名・押印がないといったミスで遺言書全体が無効となることがあります。なお、財産目録はパソコンで作成したものや通帳コピー等を添付することもできますが、その場合は各頁に署名・押印が必要です。こうした自筆証書遺言の注意点は数多く存在します。
そして、もう一つの大きな負担が、相続開始後に家庭裁判所で行う「検認(けんにん)」という手続きです。検認とは、遺言書の偽造や変造を防ぎ、その状態を保全するための手続きで、相続人全員に通知され、裁判所で遺言書を開封します。
この検認手続きには、以下のような手間と費用がかかります。
- 申立て費用:遺言書1通につき収入印紙800円分、連絡用の郵便切手代
- 必要書類の収集費用:亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本など、数千円〜1万円以上かかることもあります。
- 時間と手間:必要書類の収集から申立て、裁判所への出頭まで、数ヶ月かかることも珍しくありません。
作成時の費用はゼロでも、亡くなった後にご家族が時間とお金をかけてこの手続きを行わなければ、預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きを進めることができないのです。より具体的な手順については、遺言書の検認で何を聞かれる?家庭裁判所での質問と当日の流れをご覧ください。
リスク回避策「法務局保管制度」とは?費用は3,900円
自筆証書遺言のデメリットである「紛失・改ざん」のリスクや、死後の「検認手続き」を回避する方法として、2020年7月10日から「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。
これは、作成した自筆証書遺言を法務局に預ける制度で、申請手数料は1通あたり3,900円です。この制度を利用すれば、遺言書が安全に保管され、相続開始後の検認手続きが不要になるという大きなメリットがあります。
ただし、注意点もあります。法務局はあくまで遺言書を「保管」するだけで、遺言の内容が法的に有効かどうかまで審査してくれるわけではありません。形式の不備によって遺言が無効になるリスクは依然として残るため、根本的な解決策とは言えない点に留意が必要です。
この制度に関するより詳しい情報は、法務省のウェブサイトで確認できます。
参照:自筆証書遺言書保管制度について
確実性を求めるなら「公正証書遺言」|費用の内訳と計算例
自筆証書遺言のリスクを避け、ご自身の想いを確実に実現したいと考えるなら、「公正証書遺言」が最も信頼できる方法です。「費用が高い」というイメージを持たれがちですが、その内訳を知れば、決して法外な金額ではないことがお分かりいただけるはずです。
メリット:形式不備による無効リスクが極めて低く、死後の手続きもスムーズ
公正証書遺言には、費用を上回るほどの大きなメリットがあります。
- 極めて高い法的確実性:法律の専門家である公証人が、ご本人の意思を確認しながら作成するため、少なくとも形式不備で無効になるリスクは極めて低いと言えます。
- 紛失・改ざんのリスクなし:作成された遺言書の原本は、公証役場で厳重に保管されます。自宅で保管する必要がなく、紛失したり、誰かに書き換えられたりする心配がありません。
- 検認手続きが不要:公正証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所の検認を受ける必要がありません。そのため、ご家族は速やかに預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きに着手できます。
残されたご家族の負担を最大限に減らすことができる公正証書遺言は、まさに「究極の思いやり」と言えるかもしれません。近年では、公正証書遺言のデジタル化も進み、より利便性が高まっています。
公証役場の手数料はいくら?財産額ごとの計算例
公正証書遺言の作成にかかる公証役場の手数料は、法律(公証人手数料令)で定められており、相続させる財産の価額に応じて変動します。決して公証人が自由に決めているわけではありません。
計算は少し複雑ですが、「誰に」「いくらの財産を」相続させるかによって、それぞれの手数料を算出し、それらを合計します。具体的な計算例を見てみましょう。

【計算例1】財産総額5,000万円を、妻に3,000万円、長男に2,000万円相続させる場合
- 妻の分:3,000万円 → 手数料 26,000円
- 長男の分:2,000万円 → 手数料 26,000円
- 合計手数料:26,000円 + 26,000円 = 52,000円
【計算例2】財産総額8,000万円を、妻に4,000万円、長男に2,000万円、長女に2,000万円相続させる場合
- 妻の分:4,000万円 → 手数料 33,000円
- 長男の分:2,000万円 → 手数料 26,000円
- 長女の分:2,000万円 → 手数料 26,000円
- 合計手数料:33,000円 + 26,000円 + 26,000円 = 85,000円
この基本手数料に加えて、1通の遺言公正証書における目的価額の合計が1億円までの場合は遺言加算として13,000円が加算され、さらに証書の枚数に応じた加算や、証人2名の日当(専門家に依頼せず友人等に頼む場合)、公証人に出張してもらう場合の日当などが別途かかります。
多くの場合、手数料の総額は数万円から十数万円程度に収まることがほとんどです。「数十万円、百万円もかかるのでは…」というイメージとは異なり、思ったよりも高額ではないと感じられたのではないでしょうか。
手数料の計算方法については、以下の参考サイトも役立ちます。
参照:公正証書遺言とは? 作成手順やメリット、手数料について解説
当事務所の作成サポート費用(公正証書:88,000円)
当事務所にご依頼いただいた場合、公正証書遺言の作成サポートを88,000円(税込)で承っております。
この費用には、以下のサービスがすべて含まれています。
- お客様のご希望を伺い、最適な遺言内容をご提案
- 法的に不備のない遺言書の文案作成
- 公証役場との事前打ち合わせ・調整
- 必要書類(戸籍謄本、不動産登記事項証明書など)の収集代行(実費別途)
面倒な手続きはすべて専門家にお任せいただけます。公証役場の手数料と合わせても、信託銀行などに依頼するより費用を抑えつつ、確実な遺言書を作成することが可能です。
結局どっちがお得?費用と確実性のバランスで考える
「公正証書遺言は高いですよね?」というご質問をよくいただきます。確かに、作成時にかかる費用だけを見ればその通りです。しかし、私はいつも「トータルコストで考えることが大切ですよ」とお答えしています。
自筆証書遺言は作成時の費用は安いですが、亡くなった後にご家族が検認手続きを行う手間と費用がかかります。何より、形式不備で無効になってしまえば、作成した意味がなくなってしまいます。一方、公正証書遺言は作成時に一定の費用がかかりますが、法的な確実性が高く、検認も不要なため、ご家族はスムーズに相続手続きを進めることができます。
目先の数万円を節約した結果、将来ご家族が何十万円もの価値がある時間や労力を費やしたり、相続を巡るトラブルに発展してしまったりする可能性を考えると、どちらが本当の意味で「お得」と言えるでしょうか。遺言書は、ご自身の想いを実現するためだけでなく、残される大切なご家族への最後の贈り物でもあります。その贈り物が、負担になってしまわないように、費用と確実性のバランスを慎重に考えることが重要です。
こんな方は公正証書遺言がおすすめ
特に、以下のようなケースに当てはまる方は、公正証書遺言の作成を強くおすすめします。
- 相続財産に不動産(自宅やアパートなど)が含まれる方
- 相続人同士の関係があまり良好でなく、将来トラブルになる可能性がある方
- 相続人以外の人(お世話になった人など)や団体(NPO法人など)に財産を遺したい(遺贈したい)方
- 特定の相続人に事業を承継させたいと考えている経営者の方
- ご自身の字を書くことに不安がある方、または病気などで自筆が難しい方
- 確実に法的に有効な遺言書を作成し、家族に負担をかけたくない方
遺言書は、遺言書と生命保険を組み合わせた生前対策など、他の制度と組み合わせることで、より強力な効果を発揮することもあります。
「自分で書いた遺言のチェック」は割高になることも
費用を抑えたいという思いから、「とりあえず自分で遺言書を書いてみたので、専門家にチェックだけしてもらえませんか?」というご相談をいただくことがあります。お気持ちは非常によく分かるのですが、実はこの方法はかえって手間や費用がかかってしまう可能性があるのです。
正直なところ、他の方が作成された文章を法的な観点から精査し、問題点を洗い出して修正案をご提案する作業は、ゼロから作成するのと同じくらい、あるいはそれ以上に神経と時間を使います。ご本人の本当の希望が何なのかを改めてヒアリングし、財産状況を把握し、法的な問題点を整理していくと、結局は「一から作り直した方が早い」という結論に至るケースが少なくありません。
そのため、当事務所では「遺言書のチェック」というご依頼であっても、お客様の真のご希望を叶えるためには、新規作成と同じ費用をいただいております。遠回りをせず、最初から専門家にご相談いただくことが、結果的に最も確実で効率的な方法なのです。
遺言書作成の費用に関するご相談事例

先日、70代の男性から「遺言書は書かなければいけないとずっと思っているのですが、費用が気になって…」というお電話をいただきました。
詳しくお話を伺うと、以前、信託銀行のセミナーで遺言信託の話を聞いた際に、手数料が100万円以上かかると説明され、「遺言書を作るのはそんなにお金がかかるのか」と驚いてしまったそうです。
私は、当事務所の公正証書遺言作成サポートの料金(88,000円)と、公証役場の手数料の概算をお示ししました。すると、その方は「え、そんなものなんですか!信託銀行で聞いていた金額よりずっと安いですね!」と大変安心されたご様子で、その場でご依頼いただくことになりました。
この事例のように、「費用が高い」という思い込みが、大切な準備を先延ばしにしてしまう原因になっていることは少なくありません。まずは専門家に相談し、ご自身のケースでは具体的にどれくらいの費用がかかるのかを正確に把握することが大切です。
まとめ|遺言書の費用相談は専門家へ
遺言書の作成費用について、自筆証書遺言と公正証書遺言を中心に解説してきました。
- 自筆証書遺言は作成費用がほぼゼロですが、無効リスクや死後の検認手続きという家族の負担があります。
- 公正証書遺言は作成時に数万円〜の費用がかかりますが、法的確実性が非常に高く、家族の負担を大きく軽減できます。
どちらが良い・悪いということではなく、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、ご自身の状況や価値観に合った方法を選ぶことが重要です。大切なのは、目先の作成費用だけで判断するのではなく、将来の家族の負担まで含めた「トータルコスト」で考える視点です。
「自分にはどちらの方法が合っているのだろう?」「具体的な費用を知りたい」と感じたら、ぜひ一度、専門家にご相談ください。当事務所では、遺言書作成に関する無料相談を承っております。ご自身の財産状況やご希望をお伺いし、最適なプランと明確な費用をご提案させていただきます。遺言書作成に関する無料相談はこちらからお気軽にお問い合わせください。相続手続きでは、遺言書のほかにも相続登記の費用など様々な費用が発生する可能性がありますので、全体像を把握するためにも専門家への相談をおすすめします。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
相続登記の必要書類リスト|ケース別に専門家が徹底解説
相続登記の必要書類は大きく分けて3種類
ご家族が亡くなられ、不動産の名義変更(相続登記)を考えたとき、多くの方がまず直面するのが「必要書類の多さと複雑さ」ではないでしょうか。役所のホームページや解説サイトを見ると、聞き慣れない書類の名前がずらりと並び、途方に暮れてしまうかもしれません。
でも、ご安心ください。一見すると複雑に見える相続登記の必要書類も、その役割で整理すると、実はたった3つのグループに分けられます。まずはこの全体像をつかむことで、頭の中がスッキリ整理され、落ち着いて準備を進められるはずです。
相続登記は、いわば「宝の地図」を完成させるようなもの。これからご紹介する3つのグループは、その地図を完成させるための大切なピースです。
① 相続関係を証明する書類
これは「誰が亡くなって(被相続人)、誰が財産を受け継ぐ権利があるのか(相続人)」を公的に証明するための書類群です。主に戸籍謄本などがこれにあたります。法務局は、この書類を見て「この人たち以外に相続人はいない」ということを確認します。
② 不動産に関する書類
名義変更の対象となる不動産が「どこにあって、どのようなものか」を特定するための書類です。固定資産評価証明書や登記事項証明書(登記簿謄本)などが含まれます。税金の計算や、正確な不動産情報を申請書に記載するために不可欠です。
③ 登記申請のための書類
法務局に「このような内容で名義変更をお願いします」と意思表示をするための書類です。具体的には、相続人全員の合意内容を示す遺産分割協議書や、法務局所定の登記申請書などがこれにあたります。
いかがでしょうか。このように分類するだけで、それぞれの書類が持つ意味が見えてきませんか?次の章からは、最も一般的なケースを例に、具体的な書類を一つひとつ見ていきましょう。
【基本】遺産分割協議で相続登記する場合の必要書類リスト
ここからは、相続のケースで最も多い「遺言書がなく、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で不動産の取得者を決める」場合を例に、必要書類を具体的に解説します。まずは、この基本パターンをしっかり押さえることが大切です。
必ず必要になる基本書類
どの相続登記でも、いわば土台となる書類です。これらがなければ、手続きは始まりません。
被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本等
なぜ「死亡時」だけでなく「出生まで」遡る必要があるのでしょうか。それは、法務局が「他に相続人がいないか」を厳密に確認するためです。例えば、過去の結婚での子どもや、認知している子どもの存在などをすべて洗い出すには、亡くなった方の人生すべての戸籍をたどる必要があるのです。転籍や結婚などで戸籍は新しく作られるため、多くの場合、複数の役所から何通も取り寄せることになります。
被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
これは、登記簿に記載されている住所と、亡くなった時の最後の住所が同じであることを証明するために必要です。もし住所が異なると、登記簿上の人物と亡くなった方が同一人物であると確認できず、手続きが進められません。(詳しくは後の「落とし穴」で解説します)
相続人全員の現在の戸籍謄本
相続手続きの時点で、相続人の方々がご存命であることを証明するために必要です。
不動産を相続する人の住民票
新しく不動産の名義人になる方の氏名・住所を正確に登記するために提出します。
不動産の固定資産評価証明書
相続登記では、登録免許税の計算に必要となる「固定資産の価格(課税価格)」を確認し、登記申請書に記載します。そのため、固定資産評価証明書を取得して評価額を確認するのが一般的です(申請内容によっては、提出先で別の資料で足りる場合もあります)。市区町村役場(東京23区の場合は都税事務所)で取得できます。
これらの書類を一つひとつ集めるのは、時間も手間もかかります。特に戸籍の収集は専門的な知識がないと難航しがちです。もしご自身で戸籍を集めるのが大変な場合は、集めた戸籍をもとに法定相続情報一覧図を作成しておくと、その後の銀行手続きなどで戸籍一式の提出が不要になり便利です。
参照:総務省「本籍地の戸籍証明書取得方法」
遺産分割協議にもとづく追加書類
相続人全員で話し合い、合意した内容を証明するための書類です。
遺産分割協議書
「どの不動産を、誰が相続するのか」を明確に記載し、相続人全員が署名・押印した書類です。遺産分割協議書は、後のトラブルを防ぐためにも非常に重要な書類であり、法務局はこの内容に基づいて登記を行います。
相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書に押された印鑑が、間違いなく本人の実印であることを証明するために添付します。これにより、協議書が相続人全員の正式な意思に基づいて作成されたことの証明力が高まります。
【ケース別】遺言書がある場合に必要な書類
被相続人が遺言書を遺していた場合、原則としてその内容に従って相続手続きを進めます。そのため、遺産分割協議書は不要となり、代わりに遺言書そのものが重要な書類となります。ただし、遺言書の種類によって少し手続きが異なります。

公正証書遺言の場合
公証役場で作成された公正証書遺言は、公証人が内容を確認して作成するため、信頼性が非常に高いのが特徴です。そのため、家庭裁判所での「検認」という手続きが不要で、比較的スムーズに相続登記を進めることができます。
【追加で必要になる書類】
- 公正証書遺言の正本または謄本
自筆証書遺言の場合(検認・法務局保管制度)
故人が自筆で作成した遺言書は、偽造や変造を防ぐため、原則として家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける必要があります。検認とは、相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言書の状態を保全するための手続きです。この検認が終わると、「検認済証明書」が発行され、これを遺言書とセットで法務局に提出します。自筆証書遺言は、形式の不備で無効になるケースもあるため注意が必要です。
【追加で必要になる書類】
- 自筆証書遺言書
- 検認済証明書
ただし、2020年からはじまった「法務局における自筆証書遺言書保管制度」を利用している場合は、法務局が遺言書を保管し、検認が不要となります。その場合は「遺言書情報証明書」という書類が検認済証明書の代わりとなります。
参照:法務省「自筆証書遺言書保管制度について」
こんなときはどうする?特殊ケースで必要になる書類
相続は、必ずしも単純なケースばかりではありません。ここでは、少し複雑な状況で必要となる追加書類について解説します。
相続放棄をした相続人がいる場合
相続人の中に借金などの理由で相続放棄をした方がいる場合、その人は初めから相続人ではなかったことになります。その事実を法務局に証明するため、「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所で取得し、提出する必要があります。
代襲相続や数次相続が発生している場合
本来相続人となるはずの子が親より先に亡くなっていて、その子(孫)が代わりに相続する「代襲相続」。あるいは、遺産分割協議が終わらないうちに相続人の一人が亡くなってしまい、次の相続が始まってしまう「数次相続」。
こうしたケースでは、相続関係が複雑になり、証明するために必要な戸籍謄本の量が格段に増えます。例えば、亡くなった方に子どもがおらず、ご両親もすでに他界している場合、相続人は兄弟姉妹や甥・姪になります。この場合、亡くなった方の親の「出生から死亡まで」の戸籍謄本も必要となり、戸籍集めの難易度は一気に跳ね上がります。
実際に、ご兄弟が亡くなり、ご自身で銀行や法務局の手続きを進めようとした方から、こんなご相談がありました。
「自分で戸籍は全部そろえたつもりだったのに、銀行からも法務局からも『まだ足りません』と言われてしまって…。何度も役所に足を運んだのに、一体何が足りないのかも分からず、本当に困り果てていました」
この方の場合、まさに兄弟姉妹が相続人となるケースで、通常では気付きにくい親御様の古い戸籍が不足していました。私たちが戸籍の収集から法定相続情報一覧図の作成まで代行したことで、「何ヶ月も止まっていた手続きが一気に動き出して、本当に安心しました」と、安堵の表情でおっしゃっていたのが印象的です。
このように、代襲相続などが絡むと、手続きは専門家でも慎重に進めるほど複雑になります。
要注意!自分で書類集めをするときの4つの落とし穴
「必要書類のリストもわかったし、自分で挑戦してみよう」と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、相続登記の書類集めには、専門家だからこそ知っている、一般の方が陥りがちな「落とし穴」がいくつも存在します。ここでは代表的な4つのケースをご紹介します。
落とし穴①:戸籍謄本が途中で抜けている
「出生から死亡まで」の戸籍を集めるのは、想像以上に大変な作業です。昔の戸籍は手書きで読みにくかったり、戦争で焼失していたりすることもあります。また、法律の改正で戸籍が作り替えられる「改製」や、本籍地を移す「転籍」があると、その前後で戸籍が分断されます。このつながりを正確に読み解けないと、途中の戸籍が抜け落ちてしまい、法務局から「戸籍が不足しています」と書類を突き返されてしまうのです。
落とし穴②:登記簿の住所と最後の住所が違う
これは非常によくあるケースです。不動産を購入してから何十年も経っていると、引っ越しなどで登記簿上の住所が古いままになっていることがあります。この場合、登記簿の住所から亡くなった時の最後の住所までのつながりを証明しなければなりません。住民票の除票や戸籍の附票で証明しますが、それでもつながらない場合は、権利証(登記識別情報)の提出や、相続人全員からの「間違いなく同一人物です」という内容の上申書(実印を押印)が必要になるなど、手続きが格段に複雑になります。より詳しい対処法は「故人の登記簿上の住所が古い場合の相続登記対処法」で解説しています。
落とし穴③:固定資産評価証明書の年度が違う
登録免許税の計算に使う固定資産評価証明書は、一般に「登記申請日が属する年度」に対応するものが求められます。例えば、2025年12月に亡くなった方の相続登記を2026年5月に申請する場合は、2026年度の証明書が必要になることが多いです。証明書の年度は毎年4月1日に切り替わるため、申請時期によって必要年度が変わります。提出先の案内に従い、必要な年度を事前に確認しておくと安心です。相続登記の登録免許税の計算は、こうした細かなルールに基づいて行われます。
落とし穴④:相続した建物が未登記だった
古い家屋などでは、建物が登記されていない「未登記建物」であるケースが稀にあります。この場合、いきなり相続登記はできません。まず、土地家屋調査士という別の専門家に依頼して、建物の物理的な状況を登録する「建物表題登記」を行い、その後に司法書士が所有権を登録する「所有権保存登記」を行うという、二段階の手続きが必要になります。詳しくは「未登記建物の相続登記」で解説していますが、相続手続きを始めてから発覚すると、時間も費用も想定以上にかかってしまう可能性があります。
書類集めは専門家へ。司法書士に依頼するメリット
ここまで読んで、「自分で全部やるのは、思ったより大変そうだ…」と感じられた方も多いのではないでしょうか。相続登記は、人生で何度も経験する手続きではありません。だからこそ、専門家である司法書士に任せることには大きなメリットがあります。

面倒な戸籍収集から登記申請まで一括代行
司法書士にご依頼いただく最大のメリットは、やはり「手間と時間からの解放」です。特に大変な戸籍謄本の収集は、相続関係を正確に把握した上で、全国各地の役所に郵送で請求をかけるなど、専門的な知識と経験がなければスムーズに進みません。平日の昼間に何度も役所や法務局に電話をしたり、足を運んだりする負担を、すべて私たち専門家が代行します。
初めてのご相談に来られる方の多くは、「何から手をつけていいか、どんな書類が必要なのか、全く分からない」という状態です。それは当然のことです。私たちは、最初の無料相談の段階で、お客様の状況に合わせた必要書類をリストにしてお渡しし、一つひとつ丁寧にご説明することから始めます。お客様の不安な気持ちに寄り添い、ゴールまで伴走するのが私たちの役目です。
正確な書類作成でミスなくスムーズに手続き完了
専門家に依頼するもう一つの大きなメリットは、手続きの「正確性」と「迅速性」です。ご自身で申請した場合、書類の不備や申請書の記載ミスで、法務局から何度も「補正(修正)」の指示を受けることがあります。そのたびに法務局へ出向いたり、書類を取り直したりしていては、時間も精神的な負担もかさんでしまいます。
私たち司法書士は、日々、登記の専門家として業務を行っています。正確な書類作成と法務局との円滑なやり取りにより、申請上のミスや手戻りのリスクを減らし、できるだけスムーズに手続きを進めやすくなります。2024年4月から相続登記が義務化され、期限内に手続きを終えることの重要性も増しています。結果的に専門家に依頼することが、時間もコストも最も効率的な選択となるケースは少なくありません。
もし手続きでお困りでしたら、お気軽に相続登記に関する無料相談をご利用ください。
まとめ|相続登記は「書類集め」が8割!迷ったら専門家へ
相続登記の手続き全体を見渡すと、その成功の8割は「正確な書類を、漏れなく集めること」にかかっていると言っても過言ではありません。登記申請書自体は法務局のウェブサイトにも雛形がありますが、前提となる戸籍や遺産分割協議書などの準備に不備があると、補正対応が必要になるなど手続きが進みにくくなることがあります。
この記事では、必要書類のリストから、一般の方が陥りやすい落とし穴まで、詳しく解説してきました。もし、少しでも「自分のケースは複雑かもしれない」「書類を集める時間がない」「手続きに確実を期したい」と感じられたなら、一人で抱え込まずに、ぜひ私たち相続の専門家にご相談ください。
早めに専門家のサポートを受けることが、結果的に最もスムーズで、安心できる解決への近道です。私たちは、あなたの不安な気持ちに寄り添い、円満な相続手続きの実現を全力でサポートします。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
単元未満株式の相続手続き|見落とされやすい株式の行方と調査法
「2010株のはずが10株?」単元未満株の相続で起こる“神隠し”
「父が遺した株式は、たしか2010株あったはずなんです。でも、信託銀行に問い合わせたら『当行でお預かりしているのは10株だけです』と言われてしまって…。残りの2000株は、一体どこに消えてしまったんでしょうか?」
これは、実際に当事務所にご相談に来られた方のお話です。お父様が亡くなり、毎年配当金の通知などを送ってくるA信託銀行に連絡すれば、すべての株式の相続手続きができると考えていらっしゃいました。しかし、返ってきたのは予想外の回答。残りの株式の行方が分からず、途方に暮れていらっしゃいました。
まるで“神隠し”にでもあったかのように、存在するはずの株式が見つからない。実はこれ、株式の相続、特に「単元未満株式」が絡むケースで非常によく起こる典型的な落とし穴なのです。
多くの方が、「通知が届く金融機関が、すべての株式を管理しているはずだ」と思い込んでしまいがちです。しかし、その思い込みが手続きを複雑にし、ときには財産の発見を遅らせてしまう原因になります。
この記事では、司法書士として数多くの株式相続に携わってきた経験から、見落とされがちな単元未満株式の相続について、その調査方法から具体的な手続き、そして相続後の選択肢まで、分かりやすく解説していきます。もしあなたが今、同じような状況で不安を感じているなら、この記事がきっと解決の糸口になるはずです。
まず理解したい「単元未満株」と2つの保管場所
なぜ、あるはずの株式が見つからなくなってしまうのでしょうか。その謎を解くカギは、「単元未満株」という言葉と、株式が保管されている「2種類の口座」にあります。
単元株と単元未満株(端株)の基本的な違い
日本の多くの上場企業の株式は、「単元株制度」というルールを採用しています。これは、株式を売買する際の最低単位を決めるもので、多くは「100株=1単元」と定められています。
単元株(100株、200株など100株単位の株)は、証券取引所で自由に売買でき、株主総会で議決権を行使する権利があります。
一方で、単元未満株(1株〜99株の株。端株とも呼ばれます)は、取引所では原則として単元(100株など)単位での売買となるため、単元未満のままでは取引しにくく、議決権もありません。しかし、だからといって価値がないわけではありません。配当金を受け取る権利はありますし、立派な相続財産です。そのため、会社は単元未満株の株主に対しても、配当金の通知や事業報告書などを送付します。
単元未満株は、株式分割(1株が2株、1株が3株になるなど)や合併など、株主の意思とは関係ないところで自然に発生することがあります。

なぜ株式はバラバラに?証券口座と特別口座の役割分担
ここからが最も重要なポイントです。株式の保管場所は、大きく分けて2種類あります。
- 証券口座: 証券会社で開設する、株式などを売買・管理するための一般的な口座です。
- 特別口座: 証券会社に預託されていない株式を管理するために、発行会社が信託銀行などに開設した特殊な口座です。
なぜ、このような分かりにくい仕組みになっているのでしょうか。それは、2009年に行われた「株券電子化」という制度変更に深く関係しています。
かつて株券は紙で発行されていましたが、電子化によってすべてデータで管理されることになりました。その際、証券会社の口座に預けられていた株券は、そのまま電子データとしてその証券口座で管理されることになりました。
しかし、タンス預金のように自宅で保管されていた株券や、証券会社に預けていなかった株券は、行き場を失ってしまいます。そこで、これらの株券の受け皿として、株主名簿を管理している信託銀行などに「特別口座」が自動的に開設され、そこで管理されることになったのです。
このとき、株券電子化の時点で証券会社に預託されていた株式は証券口座で管理され、預託されていなかった株式(手元保管の株券等)は発行会社が開設する特別口座に移行します。そのため、同じ銘柄でも保管先が証券口座と特別口座に分かれてしまうことがあります。
冒頭の事例で言えば、2000株(単元株)は証券会社の「証券口座」に、残りの10株(単元未満株)は信託銀行の「特別口座」に、という形で別々に管理されていたのです。これが、“神隠し”の正体です。
隠れた株式を見つけ出す「ほふり」での調査方法
では、故人がどの証券会社に口座を持っていたのか分からない場合、どうすればよいのでしょうか。一つひとつ心当たりのある証券会社に問い合わせるのは大変です。そこで頼りになるのが、「ほふり」という機関です。
相続財産の全体像を把握する方法については、自分で財産調査する具体的な方法で体系的に解説しています。
ほふり(証券保管振替機構)とは?
「ほふり」は、株式会社証券保管振替機構(JASDEC)の愛称で、株式等振替制度のもとで振替の仕組みを運営している機関です。相続等の手続で行う「登録済加入者情報の開示請求」では、振替株式等に係る口座が開設されている証券会社・信託銀行等(口座管理機関)の一覧を確認できる、と理解するとよいでしょう(銘柄名や保有残高までは分かりません)。
相続人は、この「ほふり」に対して所定の手続きで開示請求(登録済加入者情報の開示請求)を行うことで、振替株式等に係る口座が開設されている証券会社・信託銀行等(口座管理機関)の一覧を確認できます。
開示請求で判明することと、その後のアクション
ほふりに開示請求をすると、「登録済加入者情報」という書類が届きます。これには、故人が口座を開設していた金融機関(証券会社や信託銀行など)の名称が一覧で記載されています。
ただし、注意点があります。この開示結果で分かるのは、「どの金融機関に口座があるか」までです。「どの銘柄を何株保有しているか」といった具体的な内容までは分かりません。
したがって、次のアクションは以下のようになります。
- ほふりから開示結果を受け取る。
- そこに記載されている金融機関(証券会社、信託銀行など)のすべてに、個別に連絡を取る。
- 各金融機関で、相続手続きと残高証明書の取得を依頼する。
この手順を踏むことで、故人が保有していたすべての株式を正確に把握し、相続手続きのスタートラインに立つことができるのです。

単元未満株の相続手続き|2つの窓口と具体的な流れ
財産の全体像が判明したら、いよいよ具体的な相続手続きに移ります。単元未満株がある場合、多くは「信託銀行」と「証券会社」という2つの窓口で、それぞれ手続きを進める必要があります。
ステップ1:信託銀行で「特別口座」の手続き
まずは、単元未満株が管理されている信託銀行(株主名簿管理人)での手続きです。配当金の通知などを送ってきているのがこの信託銀行です。
手続きの主な流れは以下の通りです。
- 相続が発生した旨を連絡し、手続きに必要な書類を取り寄せる。
- 戸籍謄本や遺産分割協議書など、指定された書類を提出する。
- 単元未満株をどうするか(後述する買取請求や移管など)を伝え、手続きを依頼する。
ステップ2:証券会社で「証券口座」の手続き
次に、ほふり調査などで判明した証券会社での手続きです。故人の口座を相続人の口座に移す(名義変更する)手続きがメインとなります。一般的な銀行・証券口座の手続きと同様の流れで進めます。
こちらも、相続発生の連絡、必要書類の提出という流れは信託銀行と同じです。信託銀行での手続きと並行して進めることで、全体の時間を短縮することができます。
要注意!手続きの二度手間と長期化を防ぐポイント
私が実務で見てきた中で、相続人の方が陥りがちな失敗は「手続きの二度手間」です。
例えば、まず信託銀行の手続きのために戸籍謄本一式を集め、提出したとします。その後、証券会社の口座の存在に気づき、また同じように戸籍謄本を集め直す…というケースです。金融機関によっては原本の提出を求められることもあり、時間も費用も余計にかかってしまいます。
最初に「ほふり」で全体像を把握し、必要な書類をまとめて取得した上で、各金融機関に同時にアプローチすることが、手続きをスムーズに進める最大のコツです。
相続した単元未満株はどうする?3つの選択肢と選び方
無事に相続手続きが終わった後、相続した単元未満株をどう扱うか、主に3つの選択肢があります。ご自身の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。
① 相続人の証券口座にそのまま移管する
故人の口座から、ご自身の証券口座へ株式をそのまま移す方法です。今後、株価が上がることを期待して保有し続けたい場合や、配当金を受け取り続けたい場合に適しています。特別口座にある単元未満株も、ご自身の証券口座に移管することで、同じ口座でまとめて管理できるようになります。
② 発行会社に時価で買い取ってもらう(買取請求)
単元未満株は市場で売買できませんが、「買取請求制度」を利用して、その株式を発行している会社自身に時価で買い取ってもらうことができます。これは最もシンプルに現金化できる方法で、手続きも比較的簡単なため、株式の管理をしたくない方や、すぐに現金化したい方に選ばれることが多い選択肢です。
③ 不足分を買い足して単元株にしてから売却する
「買増請求制度(買い増し制度)」を利用して、1単元(100株)に足りない分を発行会社から買い足し、単元株にしてから市場で売却する方法です。例えば80株を相続した場合、20株を買い足して100株にします。市場価格で売却できるため、買取請求よりも有利な価格で売れる可能性がありますが、追加の資金が必要になる点や、証券会社によっては対応していない場合もあるため、やや上級者向けの方法と言えます。

相続人が複数いる場合の注意点とよくある失敗例
相続人が一人ではなく複数いる場合、単元未満株の存在はさらに注意が必要です。株式、特に単元未満株は不動産のように物理的に分けることが難しいため、遺産分割でトラブルの種になりやすい財産です。
「分けにくい財産」をどう分ける?遺産分割の工夫
株式を公平に分けるには、遺産分割協議書の作成段階で工夫が必要です。実務上よく用いられるのは、以下の2つの方法です。
- 換価分割:代表相続人の一人がすべての株式を相続して売却し、得られた現金を他の相続人と分割する方法。最も公平で分かりやすい方法です。
- 代償分割:相続人の一人が株式をすべて相続する代わりに、他の相続人に対してその価値に見合う現金(代償金)を支払う方法。株式を保有し続けたい相続人がいる場合に有効です。特定の相続人が財産を取得する代わりに他の相続人へお金を払う代償分割は、分けにくい財産がある場合に便利な制度です。
実務で見た!単元未満株をめぐる失敗談
専門家として、単元未満株が原因で起こったトラブルをいくつも見てきました。特に多いのが、以下のようなケースです。
- 信託銀行の手続きだけで満足してしまう: 配当金通知を送ってきた信託銀行での手続きを終え、すべて完了したと思い込んでしまう。その後、ほふり調査をしなかったため証券口座の存在に気づかず、数年後に相続税の申告漏れを指摘される。
- 配当金だけが放置される: 証券口座の株式は名義変更したが、特別口座の単元未満株の存在に気づかない。その結果、配当金だけが故人名義の口座に振り込まれ続け、数年後に信託銀行からの通知で問題が発覚する。
こうした失敗を防ぐためにも、最初の段階で正確な財産調査を行うことが何よりも重要です。
複雑な株式相続は専門家へ|司法書士ができること
ここまでお読みいただき、「思ったより手続きが複雑で大変そうだ」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。特に、複数の金融機関に口座が分かれている場合、それぞれと個別にやり取りをするのは大きな負担です。
私たち司法書士は、相続手続きの専門家として、こうした複雑な株式相続をトータルでサポートすることができます。
- 正確な財産調査:戸籍謄本の収集から「ほふり」への開示請求まで、相続財産の全体像を正確に把握します。
- 煩雑な手続きの代行:複数の信託銀行や証券会社とのやり取りを、すべて代理人として行います。
- 遺産分割協議書の作成:相続人全員が納得できるような、法的に有効な遺産分割協議書を作成します。
- ワンストップ対応:不動産の名義変更(相続登記)はもちろん、必要に応じて税理士と連携し、相続税の申告までスムーズに繋ぎます。
当事務所では、こうした相続手続き全般を代行する遺産承継業務も承っております。もし手続きにご不安があれば、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ|「通知が届く=全部そこ」という思い込みに注意
単元未満株式の相続は、故人が株式投資にどれだけ詳しかったかに関わらず、誰にでも起こりうる問題です。そして、その手続きでつまずく最大の原因は、「配当金の通知が届く金融機関に、すべての株式があるはずだ」という思い込みです。
この記事でお伝えしたかった最も重要なポイントは以下の3つです。
- 株式の保管場所は「証券口座」と「特別口座」の2種類がある。
- 「ほふり」で開示請求すれば、故人が口座を持つすべての金融機関がわかる。
- 最初に関係金融機関をすべて特定し、同時に手続きを進めるのが効率的。
見えない株式の存在は、相続手続き全体を遅らせ、相続人間のトラブルの原因にもなりかねません。少しでも心当たりがあれば、まずは専門家による正確な財産調査から始めることをお勧めします。それが、円満な相続を実現するための最も確実な一歩となるはずです。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
相続関係説明図の書き方|法務局の補正指示を防ぐ作成術【図解】
相続関係説明図とは?相続登記で求められる理由
相続関係説明図とは、亡くなられた方(被相続人)と、その財産を受け継ぐ相続人が誰であるかを一覧で分かりやすくまとめた家系図のような書類です。相続登記(不動産の名義変更)を法務局に申請する際に、戸籍謄本一式とあわせて提出します。
この書類を提出する最大の目的は、山のような戸籍謄本の束を提出しなくても、その「原本」を返してもらえる(原本還付)点にあります。相続手続きでは、不動産の名義変更だけでなく、銀行預金の解約など他の手続きでも戸籍謄本が必要になるため、原本が手元に戻ってくるメリットは非常に大きいのです。
この記事では、法務局からの補正指示を受けにくくし、相続登記をよりスムーズに進めるための相続関係説明図の書き方を、図解を交えながら専門家が分かりやすく解説します。
なお、相続登記の全体像については、「不動産の名義変更(相続登記)」で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。
相続登記をスムーズに進めるための「翻訳図」
相続人を確定させるためには、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本や、相続人全員の現在の戸籍謄本など、膨大な量の書類が必要になります。
法務局の登記官は、これらの戸籍を一枚一枚読み解き、誰が正当な相続人なのかを判断します。しかし、戸籍は何度も作り直されていたり(改製)、本籍地が転々と変わっていたりして、読み解くには専門的な知識と時間が必要です。
そこで役立つのが相続関係説明図です。これは、いわば「大量の戸籍から読み取れる複雑な相続関係を、登記官のために分かりやすく翻訳した要約図」と言えます。登記官はこの図と戸籍謄本を照らし合わせることで、相続関係を迅速かつ正確に把握でき、登記手続きがスムーズに進むのです。
「法定相続情報一覧図」との違いと使い分け
相続関係説明図とよく似た書類に「法定相続情報一覧図」があります。どちらも相続関係を証明する書類ですが、目的や効力に違いがあります。
| 項目 | 相続関係説明図 | 法定相続情報一覧図 |
|---|---|---|
| 目的 | 主に相続登記申請時の戸籍謄本等の原本還付 | 各種相続手続き(登記、預金解約、相続税申告等)の簡略化 |
| 作成・提出先 | 自分で作成し、相続登記先の法務局に提出 | 自分で作成し、登記所に「申出」をして認証を受ける |
| 効力 | 提出した登記申請でのみ有効 | 認証後は公的な証明書として各種手続で利用でき、一覧図は5年間(申出日の翌年から起算)保存されるため、その間は写しの再交付を受けられる |
| 特徴 | 比較的自由に記載できる(遺産分割内容など) | 記載ルールが厳格に決まっている |
どちらを作成すべきか迷ったときは、以下のように判断するとよいでしょう。
- 相続関係説明図がおすすめな人:手続き先が相続登記のみ、または数カ所程度で、遺産分割の内容などを図に書き込みたい方
- 法定相続情報一覧図がおすすめな人:不動産以外に銀行や証券会社など、手続き先が多数ある方
法定相続情報一覧図を自分で作る方法については、別の記事で詳しく解説しています。
【相談事例】法務局の補正指示で登記が止まった…
ここで、相続関係説明図の重要性がよくわかる、当事務所に実際に寄せられたご相談を紹介します。
「父の相続登記を自分で進めていたのですが、法務局から電話があって…」
お父様を亡くされたご長男のAさんは、ご自身で戸籍謄本一式をそろえ、法務局に相続登記を申請しました。これで一安心、と思っていた矢先、法務局の担当者から一本の電話が入ります。
「提出された戸籍だけでは相続関係が分かりにくいため、相続関係説明図を追加で提出してください」
これは「補正指示」と呼ばれるもので、書類に不備があるため手続きがストップしてしまった状態です。Aさんは、慣れない書類をまた一から作らなければならないことに途方に暮れ、「もう自分では無理かもしれない」と不安に感じ、当事務所にご相談に来られました。
お話を伺い、私たちが戸籍を精査して正確な相続関係説明図を作成し、法務局に提出したところ、止まっていた登記手続きは無事に完了しました。Aさんからは「最初から専門家にお願いすればよかった」と安堵の言葉をいただきました。
この事例のように、相続関係が少しでも複雑な場合、戸籍謄本をただ提出するだけでは登記官が判断に迷い、補正指示の対象となることがあります。そうならないためにも、正確な相続関係説明図の作成が不可欠なのです。
法務局の補正指示を防ぐ!相続関係説明図の基本の書き方
それでは、具体的に相続関係説明図の書き方を見ていきましょう。登記官が一目で理解できる、分かりやすい図を作成することが目標です。
【準備】まずは戸籍謄本など必要書類を集める
相続関係説明図は、戸籍謄本などの公的な書類に基づいて作成する必要があります。まずは、以下の書類を正確に集めましょう。
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票(不動産を取得する人は必須)
- (遺産分割協議をした場合)遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書
特に、被相続人の出生まで遡る戸籍の収集は、本籍地の役所を転々と辿っていく必要があり、非常に手間のかかる作業です。2024年3月から始まった戸籍謄本の広域交付制度により以前よりは集めやすくなりましたが、それでも読み解きには専門知識が求められます。
【図解】基本構成と記載すべき8つの項目
書類がそろったら、いよいよ作成です。以下のサンプル図と解説を参考に、必要な情報を漏れなく記載していきましょう。

- タイトル:「被相続人 〇〇〇〇 相続関係説明図」と、誰の相続に関する書類か明確に記載します。
- 被相続人の情報:最後の住所、最後の本籍、登記上の住所(不動産登記簿の情報)、生年月日、死亡年月日を戸籍や住民票の通りに正確に記載します。
- 相続人の情報:相続人全員の住所、氏名、生年月日を記載します。氏名の横に続柄(妻、長男など)も書きましょう。
- 続柄:被相続人との関係性が分かるように記載します。(例:妻、長男、長女)
- 関係線:夫婦は二重線、親子は単線で結びます。離婚した元配偶者や、すでに亡くなっている相続人との関係も線で示します。
- 不動産の取得関係:遺産分割協議などの結果、不動産を取得する人の氏名の横に「(相続)」や「(分割)」と記載します。不動産を取得しない人には何も記載しません。
- 作成日:この図を作成した年月日を記載します。
- 作成者:作成者の住所と氏名を記載し、押印します(認印で可)。
Word・Excelテンプレートの無料ダウンロード(法務局ウエブサイト)
法務局のウェブサイトでは、法定相続情報一覧図の様式として様々なケースの記載例が公開されており、相続関係説明図を作成する上でも参考になります。
参照:主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例 – 法務局
【ケース別】複雑な相続関係の書き方と記載例
相続は、必ずしも基本的なケースばかりではありません。ここでは、ご自身で作成する際につまずきやすい、複雑なケースの書き方を解説します。
数次相続が発生しているケース
数次相続とは、遺産分割協議が終わらないうちに相続人の一人が亡くなり、次の相続が開始してしまう状況です。例えば、祖父が亡くなり(一次相続)、その遺産分割をしないうちに父が亡くなる(二次相続)といったケースです。
この場合、亡くなった相続人(父)の相続人(母や子)が、その地位を引き継ぎます。図には、一次相続と二次相続の両方の関係者が登場するため、誰がどの立場で相続人なのかが分かるように記載する必要があります。

ポイントは、亡くなった相続人(二次相続の被相続人)の情報(死亡年月日など)をしっかり記載し、その人の相続人が誰であるかを明確に示すことです。このような状況では、相次ぐ相続に備えた遺言書の重要性も高まります。
代襲相続が発生しているケース
代襲相続とは、本来相続人となるはずの子どもが、被相続人より先に亡くなっている場合に、その子(被相続人から見て孫)が代わりに相続人になる制度です。
図には、先に亡くなった子(被代襲者)と、その代わりに相続する孫(代襲者)の両方を記載します。誰がどの立場で相続するのかが一目で分かるように、「(被代襲者)」と「(代襲者)」と明記するのがポイントです。

被代襲者の死亡年月日を正確に記載し、被相続人より前に亡くなっていることを証明する必要があります。なお、相続放棄した人の子は代襲相続できないなど、混同しやすいルールもあるため注意が必要です。
相続放棄した人がいるケース
相続人の中に財産も借金も一切引き継がない「相続放棄」をした人がいる場合でも、その人を省略せずに図に記載します。そして、氏名の横に「(相続放棄)」と明記します。
なぜなら、その人が存在したことを示した上で放棄したことを証明しないと、「他に相続人がいるのではないか?」と登記官が疑問に思う可能性があるからです。例えば、子ども全員が相続放棄をすると、次の順位である親や兄弟姉妹が相続人になります。相続関係を正確に示すために、放棄した人も必ず記載しましょう。
離婚歴や養子縁組があるケース
被相続人に離婚歴があり、前の配偶者との間に子がいる場合、その子も相続人になります。離婚した元配偶者は相続人にはなりませんが、関係性を示すために図に記載することがあります。その際は、離婚した年月日を記載し、相続人ではないことが分かるようにしておきましょう。
また、養子縁組をしている場合、養子は実子と全く同じ相続権を持ちます。図には実子と同じように記載し、続柄を「養子(養女)」とします。誰が相続人になるのかを正確に反映させることが重要です。
失敗しないための最終チェックリストと注意点
完成した書類を法務局に提出する前に、ご自身で最終確認を行いましょう。以下の点をチェックするだけで、補正指示のリスクを大幅に減らすことができます。
戸籍謄本の情報と一字一句合っているか
最も基本的で、最も補正指示を受けやすいのが、戸籍情報との不一致です。氏名の漢字(旧字体・異体字)、生年月日、住所、本籍地など、すべての情報が戸籍謄本や住民票の記載と「一字一句違わず」同じであるか、何度も確認してください。
- 「渡邉」と「渡辺」、「齋藤」と「斎藤」などの異体字
- 「一丁目2番3号」と「一丁目二番地三」といった住所表記の揺れ
こうしたわずかな違いでも、登記官は本人であると断定できず、補正の対象となります。提出する相続登記の書類は、すべて公的書類と完全に一致させるのが鉄則です。
手書き?パソコン?作成方法と押印の要否
相続関係説明図は、手書きでもパソコン(WordやExcel)で作成しても、どちらでも構いません。ただし、誰が読んでも分かりやすく、修正も簡単なため、パソコンでの作成をおすすめします。
また、相続関係説明図自体に実印を押す必要はありません。作成者として記名すれば足り、押印は必須ではありません。(ただし、一緒に提出する遺産分割協議書には、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です。)
誰が不動産を取得するかが明記されているか
相続登記のために提出するのですから、「この登記によって、誰が不動産を取得するのか」を明確に示す必要があります。遺産分割協議の結果、不動産を相続する人の名前の横に「(相続)」や「(分割)」など、取得関係が分かる記載を漏れなく入れましょう。
この記載がないと、登記官が誰の名義にすべきか判断しづらくなり、補正指示の対象となる可能性があります。もし遺産分割協議書を作成している場合は、その内容と一致しているかどうかも必ず確認しましょう。
自力作成は危険?専門家への依頼を検討すべきケース
ここまで相続関係説明図の書き方を解説してきましたが、中にはご自身で作成するのが難しい、あるいはリスクが伴うケースもあります。以下のような状況に当てはまる方は、無理せず専門家への相談をご検討ください。
相続関係が複雑で、どう書いていいか分からない
この記事で紹介した以外にも、相続人の一人が行方不明、認知した子がいる、前妻の子と後妻の子がいるなど、相続関係は千差万別です。数次相続や代襲相続が何重にも発生しているようなケースでは、戸籍を正確に読み解き、図に落とし込むのは至難の業です。
万が一、誤った相続関係説明図を作成してしまうと、相続人ではない人に財産を渡してしまったり、本来もらえるはずの人がもらえなかったりといった、深刻なトラブルに発展しかねません。
戸籍の収集や読み解きに時間がかかっている
そもそも、相続関係説明図を作成する前段階である「戸籍の収集」でつまずいてしまう方も少なくありません。古い戸籍は手書きで達筆なため、文字が判読できなかったり、法律の知識がないと関係性が読み取れなかったりします。
相続人の中には、財産調査に非協力的な方がいるケースもあり、手続きが思うように進まないこともあります。戸籍収集の段階から専門家にご依頼いただければ、時間と労力を大幅に節約でき、その後の手続きもすべてスムーズに進みます。
平日に法務局へ行く時間がない・手続きが面倒
法務局や市役所の窓口は、平日の日中しか開いていません。お仕事をされている方にとって、手続きのために時間を確保するのは大きな負担です。万が一、補正指示を受ければ、何度も法務局に足を運んだり、電話でやり取りしたりする必要が出てきます。
こうした時間的なコストや精神的なストレスを考えれば、最初から専門家に任せてしまう方が、結果的に効率的で安心な場合も多いのです。当事務所では、忙しい方の相続手続きを丸ごと代行するサービスも提供しております。
相続関係説明図の作成や相続登記でお困りの際は、一人で悩まず、まずは一度、当事務所の無料相談をご利用ください。あなたの状況に合わせた最適な解決策を一緒に考えさせていただきます。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
遺贈寄付とは?想いを未来へつなぐ相続のかたち【司法書士解説】
「財産の一部を社会に役立てたい」ご相談が増えています
「相続人はいるんですが、正直なところ、この財産を全部身内に残したいかと言われると、少し迷いがあって……」
そう静かに話し始めてくださったのは、70代の女性Aさんでした。ご主人はすでに他界され、お子様はいらっしゃいません。法律上の相続人は甥や姪にあたる方々ですが、もう何年も会っておらず、ほとんど交流がないとのことでした。
「もちろん、甥や姪の権利は尊重したいと思っています。ただ、自分が懸命に築いてきた財産の一部だけでも、何かの形で社会の役に立ってもらえたら、という気持ちがずっとあるんです。」
Aさんは若い頃、大きな病気で入院された経験があり、そのときに支えてくれた医療や福祉のありがたさを、今も深く心に刻んでいらっしゃいました。
一方で、大きな不安も抱えていらっしゃいました。
- 相続人とトラブルにならないだろうか…
- 本当に自分の意思は実現できるのだろうか…
- きっと、難しい手続きが必要なのだろう…
「こんなことを考えるなんて、少しわがままでしょうか。誰に相談していいのかも分からなくて…」
相続の現場では、Aさんのように「家族への想い」と「社会への貢献」の間で、ご自身の財産の行く末を真剣に考えていらっしゃる方からのご相談が、年々増えているように感じます。遺贈寄付は、決して特別なことではなく、ご自身の人生の集大成として、未来へ想いをつなぐための大切な選択肢の一つなのです。
遺贈寄付とは?想いを未来につなぐ基本的な仕組み
遺贈寄付(いぞうきふ)とは、とてもシンプルに言うと「遺言によって、ご自身の財産の一部または全部を、応援したい社会貢献団体などに寄付すること」です。特定のNPO法人や公益法人、学校法人、自治体などを寄付先に指定できます。
生前の寄付と違い、ご自身の生活資金を確保しながら、亡くなった後に残った財産から寄付ができるため、「老後の生活も大切にしながら、社会貢献も実現したい」という方に選ばれています。
「相続人がいると、遺贈寄付はできないのでは?」と心配される方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。法律で定められた相続人の権利に配慮しつつ、ご自身の想いをかたちにすることは十分に可能です。この記事では、そのための具体的な方法を丁寧にご説明していきます。

遺贈寄付には2つの方法がある「特定遺贈」と「包括遺贈」
遺贈寄付の具体的な方法には、「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があります。どちらを選ぶかによって、手続きや相続人に与える影響が変わるため、違いをしっかり理解しておくことが大切です。
| 特定遺贈 | 包括遺贈 | |
|---|---|---|
| 内容 | 「A銀行の預金100万円」など特定の財産を指定して寄付する方法 | 「全財産の3分の1」など財産の割合を指定して寄付する方法 |
| メリット | 内容が明確で、手続きが比較的スムーズに進みやすい | 寄付する財産を具体的に決める必要がない |
| デメリット | 遺言作成後に財産状況が変化した場合、寄付が実行できなくなる可能性がある | プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も割合に応じて引き継ぐことになる |
| 実務上の推奨 | トラブル回避の観点から、こちらが推奨されることが多い | 負債を引き継ぐリスクがあるため、慎重な検討が必要 |
司法書士の実務経験から申し上げると、相続人とのトラブルを避け、スムーズな手続きを実現するためには「特定遺贈」をおすすめすることがほとんどです。「包括遺贈」では、寄付先が借金などのマイナスの財産まで引き継ぐことになり、手続きが複雑化したり、最悪の場合、寄付先に受け取りを断られたりするリスクがあるためです。
メリットと知っておくべきデメリット
遺贈寄付には多くのメリットがありますが、注意すべき点も存在します。両方を正しく理解した上で、ご自身にとって最善の選択をすることが重要です。
メリット
- ご自身の想いを実現できる:応援したい分野や団体を明確に指定し、社会に貢献できます。
- 税制上の優遇措置がある:国や地方公共団体、一定の公益法人、認定NPO法人などへの寄付は、相続や遺贈で取得した財産を相続税の申告期限までに寄附するなど一定の要件を満たす場合、寄付した財産を相続税の課税対象としない特例があります。
- 社会的な意義:ご自身の財産を未来へ活かし、社会課題の解決に貢献できます。
知っておくべきデメリット
- 相続人とのトラブルの可能性:相続人の「遺留分」に配慮しない遺言は、トラブルの原因になります。
- 寄付先に断られるケースがある:不動産など管理が難しい財産や、包括遺贈は受け付けていない団体もあります。
- 手続きには専門知識が必要:法的に有効な遺言書の作成が不可欠です。
時々、「遺贈寄付は怪しいものではないか」という声を聞くことがありますが、これは一部の団体に関する問題や、手続きの複雑さからくる誤解が原因だと思われます。信頼できる寄付先を選び、専門家と共に適切な手続きを踏むことで、不安やリスクを減らせる場合があります。
【最重要】相続人とのトラブルを避ける3つの鉄則
遺贈寄付を考える上で、多くの方が最も心配されるのが「相続人とのトラブル」です。大切なご家族との関係を損なうことなく、ご自身の想いも実現するためには、専門家として絶対に守っていただきたい「3つの鉄則」があります。

鉄則1:必ず「遺留分」に配慮した遺言内容にする
相続トラブルの最大の火種、それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、親など)に法律上最低限保障されている遺産の取り分のことです。
例えば、全財産を特定の団体に寄付する、という遺言書を作成したとします。この場合、遺留分を持つ相続人は、寄付を受けた団体に対して「私の最低限の取り分(遺留分)を金銭で支払ってください」と請求(遺留分侵害額請求)することができます。これが、深刻なトラブルに発展するのです。
トラブルを未然に防ぐためには、遺言書を作成する段階で、各相続人の遺留分を正確に計算し、トラブルを避けるためには、遺言書を作成する段階で、各相続人の遺留分を計算し、それを侵害しない範囲で寄付の割合を検討することが重要です。私たち司法書士は、不動産や預貯金など全ての財産を評価し、法的なバランスを考慮した遺言内容の設計をサポートします。
鉄則2:寄付先の団体へ事前に相談・確認する
「遺言書に書きさえすれば、寄付は必ず受け取ってもらえる」というのは、実は誤解です。団体によっては、遺贈寄付の受け入れ体制が整っていなかったり、特定の財産(特に不動産)の受け取りをお断りしていたりするケースが少なくありません。
なぜなら、団体側にも管理コストや税金の負担、現金化の難しさといった事情があるからです。せっかく遺言書を作成しても、寄付先に受け取ってもらえなければ、その財産は宙に浮いてしまい、結局は相続人間での話し合いが必要になるなど、かえって混乱を招きかねません。
このような事態を避けるため、遺言書を作成する前に、必ず寄付を希望する団体の担当窓口に連絡を取りましょう。受け入れが可能かどうか、どのような方法(特定遺贈か、現金かなど)での寄付を希望しているかなどを事前に確認することが、スムーズな実現への鍵となります。
鉄則3:不動産は「清算型遺贈」を検討する
ご自宅などの不動産を寄付したい、と考える方は多くいらっしゃいます。しかし、不動産をそのまま寄付する方法は、寄付先にとっても相続人にとっても、大きな負担となる可能性があります。
寄付先は管理や売却の手間、固定資産税を負うことになります。さらに、寄付先(受遺者)が法人等となる遺贈では、内容によってはみなし譲渡(所得税法59条)として譲渡所得課税が問題となり、相続人が準確定申告などの手続に関与する必要が生じる場合もあります。
そこでおすすめしたいのが「清算型遺贈」という方法です。これは、遺言執行者が不動産を売却して現金に換え、その売却代金から諸費用を差し引いた残額を寄付するというものです。不動産の換価分割の手続きと同様の考え方で、これにより寄付先は管理の負担なく現金を受け取れ、関係者間の調整や手続の複雑さを抑えられる場合があります。税務上の取扱いは個別事情で変わるため、事前に税理士等へ確認しておくと安心です。
想いを実現する唯一の手段「遺言書」の書き方と種類
ここで、非常に重要なことをお伝えします。遺贈寄付を「遺言で確実に実現する」ためには、法的に有効な「遺言書」を作成しておくことが重要です。「エンディングノートに書いた」「家族に口頭で伝えた」というだけでは、残念ながら法的な効力は一切ないのです。あなたの最後の想いを確実にかたちにするため、正しい遺言書の作成は不可欠です。

確実性をとるか、手軽さをとるか?公正証書遺言と自筆証書遺言
遺言書には、主に「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、特徴を理解して選びましょう。
| 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | |
|---|---|---|
| 作成方法 | 公証役場で、公証人が作成に関与する | 全文、日付、氏名を自筆で書き、押印する |
| メリット | ・専門家が関与するため、無効になるリスクが極めて低い ・原本が公証役場で保管され、紛失や改ざんの心配がない ・家庭裁判所の「検認」が不要で、手続きがスムーズ | ・費用がほとんどかからない ・いつでも手軽に作成できる |
| デメリット | ・作成に費用と手間がかかる ・証人2名の立ち会いが必要 | ・形式不備で無効になるリスクがある ・紛失、改ざんのリスクがある ・死後、家庭裁判所の「検認」が必要 |
遺贈寄付のように、内容が複雑になりがちで、相続人以外の第三者が関わるケースでは、私たち専門家は「公正証書遺言」の作成を強く推奨します。費用はかかりますが、それ以上に「想いを確実に実現できる」という安心感は何物にも代えがたいからです。一方で、自筆証書遺言にも法務局の保管制度など、利便性を高める仕組みがありますので、ご自身の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。
【文例付】相続人に想いを伝える「付言事項」の活用術
遺言書には、法的な効力を持つ本文とは別に、「付言事項(ふげんじこう)」として、ご自身の想いやメッセージを自由に書き残すことができます。これが、相続人との円満な関係を築く上で、非常に大きな力を発揮します。
なぜ財産を寄付しようと思ったのか、その背景にある感謝の気持ちや社会への願いを、ご自身の言葉で綴るのです。法的な効力はありませんが、この「最後のメッセージ」が、相続人の心を動かし、遺言内容への理解と納得を促すことにつながります。
【付言事項の文例】
私がこの遺言を書いたのは、長年にわたりお世話になった〇〇(地域名)と、未来の子どもたちのために、何か少しでも恩返しがしたいと思ったからです。特に、闘病中に支えてくださった医療関係者の皆様への感謝は尽きません。その想いから、財産の一部を〇〇法人へ寄付することに決めました。
甥の〇〇、姪の〇〇、あなたたちの幸せを心から願っています。この私の想いをどうか理解してください。
手続きの要「遺言執行者」は誰に頼むべきか?
遺言書の内容を、責任を持って実現してくれる人、それが「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」です。遺言執行者は、亡くなった方に代わって、預貯金の解約や不動産の名義変更、そして寄付先への財産の引き渡しなど、全ての相続手続きを行います。
遺贈寄付を行う場合は、この遺言執行者を必ず遺言書で指定しておくべきです。相続人を指定することも可能ですが、手続きが複雑であったり、他の相続人との間で心理的な負担が生じたりすることもあります。そのため、遺言執行者には中立的な立場の専門家(司法書士など)を指定することで、全ての関係者が安心して、スムーズに手続きを進められるという大きなメリットがあります。
遺贈寄付と税金の基礎知識
「寄付をすると、税金が高くなるのでは?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、税金の基本的な考え方について、ポイントを絞ってご説明します。
寄付した財産に相続税はかかるのか?
結論から言うと、国や地方公共団体、一定の公益法人、認定NPO法人などへの寄付は、相続や遺贈で取得した財産を相続税の申告期限までに寄附し、所定の手続を行うなど一定の要件を満たす場合、寄付した財産を相続税の課税対象としない特例が適用されます。
例えば、1億円の財産のうち2,000万円を寄付した場合、相続税の計算対象となるのは残りの8,000万円となります。これにより、相続人全体の相続税負担が結果的に軽くなる可能性もあります。ただし、これはあくまでご自身の想いを実現した結果であり、節税が主目的ではありません。詳しい相続税の申告が必要かどうかについては、提携する税理士と連携してサポートいたしますのでご安心ください。
(参考)
司法書士があなたの想いを法的なかたちにします
ここまでお読みいただき、遺贈寄付を実現するためには、法律的な知識や専門的な手続きが必要であることをご理解いただけたかと思います。しかし、どうか難しく考えすぎないでください。私たち司法書士は、あなたの「想い」に寄り添い、それを法的に有効で、誰にとっても円満な「かたち」に整えるためのパートナーです。
私たちの役割は、単に書類を作成することではありません。
- あなたのお話をじっくり伺い、想いを整理するお手伝いをします。
- 相続人の遺留分など、法的なリスクを洗い出し、最適な遺言内容をご提案します。
- 寄付先団体との事前調整や、公証役場での手続きもサポートします。
- 遺言執行者として、あなたの亡き後、責任を持って想いを実現します。
不動産の相続登記をはじめとする複雑な手続きも、全て私たちにお任せください。あなたの心にある大切な想いを、安心して私たちにお聞かせいただけませんか。
ご自身の想いをかたちにするための第一歩として、まずはお気軽にご相談ください。あなたの未来への願いを、私たちが全力でサポートします。
まとめ:遺贈寄付は、誰もが選べる「想い」のかたちです
遺贈寄付は、一部のお金持ちや特別な人が行うものではありません。ご自身の人生で築き上げた財産の使い道を、ご自身の意思で決めるための、誰もが選べる選択肢の一つです。
大切なのは、財産の金額の大小ではありません。「この社会に、未来に、こんな形で貢献したい」という、あなた自身の「想い」です。そして、その想いを実現するために、事前にきちんと準備をすれば、相続人との関係も円満に保ちながら、未来へ確実につなげていくことができます。
もし、少しでも心に迷いや不安があるのなら、どうか一人で抱え込まないでください。専門家への相談は、あなたの想いを実現するための、最も確実で、最も安心できる第一歩です。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
遺産分割協議後に不動産が発覚!やり直しは必要?対応を解説
遺産分割協議後に不動産が…まずは落ち着いて状況を確認しましょう
「ようやく遺産分割協議が終わって、相続登記も済んだのに、なぜ今になって…」
相続手続きを終えて安堵していた矢先に、亡くなった方の新たな不動産が見つかったら、誰しもがそう思われることでしょう。「また、あの面倒な話し合いをやり直さなければならないのか」「兄弟とまた揉めてしまうのではないか」と、不安や焦りでいっぱいになってしまうのも無理はありません。
でも、ご安心ください。多くの場合、遺産分割協議を根本から「やり直す」必要はありません。適切な手順を踏めば、新たに見つかった不動産についても、円満に手続きを進めることが可能です。
実際に、当事務所にもこのようなご相談が寄せられることは珍しくありません。
先日ご相談に見えたAさんも、まさにご同様の状況でした。お母様の相続について兄弟3人で遺産分割協議を行い、ご自宅と預貯金について無事に合意。遺産分割協議書を作成し、相続登記も完了して「これで一段落」と胸をなでおろしていました。
ところが数か月後、亡きお母様宛てに固定資産税の通知書が届き、誰も知らなかった共有名義の土地が存在することが発覚したのです。
「もう協議は終わっているのに、この土地はどうすれば…」「登記は全部やり直しになるの?」と不安な面持ちでいらっしゃったAさんですが、適切な手続きをご案内し、無事に追加の不動産の名義変更を終えることができました。
この記事では、Aさんのように予期せぬ事態に直面したあなたが、次の一歩を安心して踏み出せるよう、司法書士・行政書士の専門家として、以下の点を分かりやすく解説していきます。
- なぜ、協議後に不動産が見つかるのか?(よくある3つのケース)
- まず何を確認すればいいのか?(2つの重要チェックポイント)
- 状況別の具体的な対応方法と相続登記の流れ
- 「やり直し」で発生する税金や費用の注意点
この記事を最後までお読みいただければ、ご自身の状況で何をすべきかが明確になり、落ち着いて問題解決に取り組めるはずです。一緒に一つずつ確認していきましょう。
遺産分割協議後に不動産が見つかる主な3つのケース
そもそも、なぜ遺産分割協議が終わった後に不動産が見つかるのでしょうか。決して珍しいことではなく、主に以下のようなケースが考えられます。ご自身の状況がどれに当てはまるか、少し振り返ってみましょう。

ケース1:財産調査で名寄帳を確認していなかった
最も多い原因の一つが、相続開始時の財産調査が不十分だったケースです。特に「名寄帳(なよせちょう)」の確認漏れは典型的なパターンです。
名寄帳とは、市区町村が固定資産税を課税するために、同一名義人が所有する不動産を一覧にまとめたものです。毎年送られてくる固定資産税の納税通知書には、課税対象となっている不動産しか記載されていません。例えば、私道部分の共有持分や、評価額が低く課税されていない山林などは、通知書に載ってこないことがあるのです。
そのため、納税通知書だけを頼りに財産を把握しようとすると、一部の不動産を見落としてしまう可能性があります。正確な財産調査には、名寄帳の取得が不可欠と言えるでしょう。
ケース2:遠方の土地・山林・共有持分の見落とし
亡くなった方が住んでいた場所から遠く離れた不動産や、資産価値が低いと思われている山林、権利関係が複雑な共有持分なども見落とされがちです。
例えば、先祖代々の土地が遠方の田舎にあったり、昔の共同事業で得たビルの共有持分があったりといったケースです。これらの不動産は日常生活との関わりが薄いため、相続人もその存在を認識していないことが少なくありません。
しかし、たとえ価値が低い不動産であっても、所有者である限り管理責任は発生しますし、放置すれば次の世代の相続がさらに複雑になるというリスクを抱えています。
ケース3:被相続人自身が把握していなかった不動産
意外に思われるかもしれませんが、亡くなったご本人ですら、その存在を忘れていた、あるいは知らなかった不動産というのも存在します。
典型的なのは、亡くなった方がさらにその親(今回の相続人から見ると祖父母)から不動産を相続したものの、相続登記をしないまま放置してしまっていたケースです。昔の相続では、手続きが曖昧なままになっていることも多く、名義が祖父母のままの不動産が、数十年経ってから判明することがあります。
このように、相続が何代にもわたって繰り返されると、権利関係がどんどん複雑化し、誰も全体像を把握できなくなってしまうのです。
対応方法を決める2つの重要ポイント【まずこれを確認】
さて、ご自身の状況を振り返ったところで、次はいよいよ具体的な対応方法を考えていきましょう。そのために、まずはお手元にある書類を確認していただきたい重要なポイントが2つあります。この2点によって、今後の手続きが大きく変わってきます。

ポイント1:遺産分割協議書に「後日判明した財産」の記載はあるか?
まず、作成済みの遺産分割協議書をじっくりと読み返してみてください。その中に、以下のような一文は含まれていないでしょうか?
本協議書に記載なき遺産並びに後日判明した遺産については、相続人〇〇がこれを取得する。
このような条項は「バスケット条項」や「包括条項」と呼ばれます。これは、協議時点で見つかっていなかった財産が後から出てきた場合に、誰がそれを相続するかをあらかじめ決めておくためのものです。
このバスケット条項が遺産分割協議書に盛り込まれているかどうかで、手続きの進め方が大きく異なります。もし記載があれば、原則として相続人全員で再び集まって話し合う必要はなく、その条項に従って手続きを進めることができます。
ポイント2:新たに見つかった不動産の相続登記は必要か?
次に確認すべきは、新たに見つかった不動産の登記状況です。法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して、現在の名義人が誰になっているかを確認しましょう。
ほとんどの場合、亡くなった方の名義のままになっているはずです。そして、2024年4月1日から相続登記が義務化されたため、この不動産を放置しておくことはできません。いずれにせよ、誰かの名義に変更する相続登記の手続きは必須となります。
この相続登記を行うために、どのような書類が必要になるのか、という観点から対応方法を考えることが重要です。
参考情報として、法務省のウェブサイトもご覧いただくと、相続登記義務化の背景についてより深くご理解いただけます。
【状況別】具体的な対応方法と相続登記の流れ
それでは、前の章で確認した2つのポイントを踏まえ、具体的な対応方法をパターン別に見ていきましょう。ご自身の状況がどちらに近いかを確認しながら読み進めてください。
パターン1:遺産分割協議書にバスケット条項がない場合
遺産分割協議書にバスケット条項の記載がなければ、新たに見つかった不動産について、改めて相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
ここで大切なのは、これは以前の協議を「やり直す」のではなく、あくまで今回見つかった不動産について「追加」で協議する、という点です。以前合意した内容(例えば、ご自宅は長男が相続するなど)は、そのまま有効です。この点を明確にすれば、他の相続人の方々にも協力を得やすくなるでしょう。
【手続きの流れ】
- 相続人全員で追加の遺産分割協議を行う:新たに見つかった不動産を誰が、どのように相続するかを話し合います。
- 追加の遺産分割協議書を作成する:話し合いで合意した内容を書面にします。この書類には、相続人全員が署名し、実印を押印する必要があります。
- 相続登記を申請する:作成した追加の遺産分割協議書や、その他必要書類(戸籍謄本、印鑑証明書など)を揃えて、法務局に相続登記を申請します。
この方法が、最も公平でトラブルになりにくい、原則的な進め方と言えます。
パターン2:遺産分割協議書にバスケット条項がある場合
バスケット条項がある場合は、手続きがシンプルになります。例えば、「後日判明した遺産は長男が取得する」という条項があれば、その長男が単独で新たに見つかった不動産を相続できます。
この場合、改めて相続人全員で協議を開く必要はありません。最初の遺産分割協議書(バスケット条項が記載されたもの)を使って、長男が自身の名義へ相続登記を申請することができます。
ただし、バスケット条項の内容には注意が必要です。例えば、「法定相続分で相続する」と定められている場合、その不動産は相続人全員の共有名義で登記することになります。共有不動産は、将来売却したり活用したりする際に、共有者全員の同意が必要になるなど、後々のトラブルの原因になりやすいため、慎重な判断が求められます。
【要注意】バスケット条項があっても再協議が必要なケース
便利なバスケット条項ですが、万能というわけではありません。以下のようなケースでは、条項があったとしても、相続人全員で改めて話し合い、合意書を作成した方がよいでしょう。
- 新たに見つかった不動産が非常に高額だった場合:他の財産と比べて著しく価値が高く、条項通りに分けると相続人間で著しい不公平が生じるケース。
- バスケット条項で取得者とされた人が亡くなっている場合:その方の相続人が権利を引き継ぐことになり、話が複雑になるため、当初の相続人全員で再協議した方がスムーズです。
- 条項の内容と異なる分け方をしたい場合:例えば「長男が取得する」とあっても、相続人全員が「今回は次男に相続させたい」と合意するのであれば、その旨の合意書を別途作成することで、次男への相続登記が可能です。
自己判断で進めてしまうと、後で他の相続人から「そんなはずではなかった」と異議が出る可能性もあります。少しでも迷う点があれば、専門家に相談することをお勧めします。
やり直しで発生する税金や費用の注意点
追加の手続きを進めるにあたり、気になるのが税金や費用の問題です。特に「贈与税」については、手続きの進め方を間違えると、思わぬ高額な税金がかかるリスクがあるため注意が必要です。

贈与税がかかる?「やり直し」と「追加協議」の税務上の違い
ここで絶対に知っておいていただきたいのは、税務上の重要な違いです。
- 追加協議:新たに見つかった財産について分割方法を決めること。一般に、今回新たに判明した財産だけを対象に整理できる場合は、贈与税の問題が生じにくいことが多いですが、手続きの進め方や当初の分割内容によっては課税関係が問題になることもあるため、税理士等に確認しながら進めましょう。
- やり直し(再分割協議):一度有効に成立した遺産分割協議の内容を、相続人全員の合意で覆し、財産の取得者を変更すること。これは、一度誰かが相続した財産を、他の相続人に「贈与」したものと見なされ、高額な贈与税が課される可能性があります。
つまり、今回のように後から不動産が見つかったケースでは、安易に以前の協議内容まで含めて「全部やり直し」てしまうと、贈与税のリスクが生じるのです。必ず「新たに見つかった不動産のみ」を対象とした「追加」の協議として手続きを進めることが、無用な税負担を避けるための鉄則です。
この判断は非常に専門的であり、相続税や贈与税の知識が不可欠です。
過去の国税不服審判所の裁決例でも、遺産分割協議のやり直しが贈与にあたるかどうかが争点となったケースがあります。専門的な判断が必要な領域であることをご理解ください。
追加でかかる登録免許税や司法書士報酬の目安
新たに見つかった不動産の相続登記には、実費として登録免許税がかかります。これは、不動産の固定資産評価額に税率を乗じて計算されます。
登録免許税 =(原則)不動産の価額(固定資産課税台帳に登録された価格など)× 0.4%
例えば、評価額が500万円の土地であれば、2万円の登録免許税を国に納める必要があります。この他に、登記事項証明書の取得費用などがかかります。
また、これらの手続きを司法書士に依頼する場合は、別途報酬が発生します。報酬額は事案の難易度や不動産の数、必要書類の収集状況などで大きく異なります。依頼する場合は、事前に見積書で総額(実費・報酬・加算費用の有無)を確認しましょう。正確な相続登記の費用については、事前に見積もりを取って確認すると安心です。
遺産分割協議後の不動産発見に関するQ&A
最後に、この問題に関してよく寄せられるご質問にお答えします。
Q. 新たな不動産が見つかったら、相続税の申告もやり直しですか?
A. はい、相続税の申告・納税を済ませている場合は、修正申告が必要になる可能性があります。
新たに見つかった不動産の価額を加えて相続財産の総額を再計算し、基礎控除額を超えるようであれば、税務署に修正申告書を提出し、追加の納税を行う必要があります。修正申告は、相続税の申告期限(原則として、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内)との関係や、当初申告の内容によって対応が変わるため、新たな財産が判明したら放置せず、速やかに税理士や税務署へ確認のうえ必要な手続きを行いましょう。放置していると、過少申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があるため、速やかに税理士などの専門家にご相談ください。当事務所でも、信頼できる相続専門の税理士と連携して対応が可能です。
Q. 相続人の一人が追加の協議に協力してくれません。どうすれば?
A. まずは、なぜ協力してくれないのか、その理由を丁寧に聞くことが大切です。もし感情的な対立が原因で話し合いが難しい場合は、司法書士などの専門家が中立的な立場で間に入ることで、冷静に話し合いが進められることがあります。
それでも合意に至らない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるという方法があります。調停は、調停委員が間に入って、各相続人の主張を聞きながら、解決策を探っていく手続きです。紛争が深刻化する前に、一度専門家にご相談いただくことをお勧めします。
Q. 遺言書が見つかった場合はどうなりますか?
A. 遺産分割協議が終わった後に遺言書が見つかった場合、原則として遺言書の内容が遺産分割協議に優先します。そのため、すでに行った遺産分割協議は無効となり、遺言書の内容に沿って手続きをやり直すのが基本です。
ただし、相続人全員と、遺言書によって財産を受け取ることになっていた受遺者が合意すれば、遺言書の内容とは異なる遺産分割協議を新たに行うことも可能です。なお、自筆証書遺言などが見つかった場合は、家庭裁判所での遺言書の検認という手続きが必要になることも忘れてはいけません。
まとめ|手続きの判断に迷ったら専門家へ相談を
今回は、遺産分割協議後に新たな不動産が見つかった場合の対応について解説しました。
最後に、大切なポイントをもう一度振り返ります。
- まずは落ち着いて、遺産分割協議書に「バスケット条項」があるかを確認する。
- バスケット条項がなければ、新たに見つかった不動産について「追加」の遺産分割協議を行う。
- バスケット条項があれば、原則としてその内容に従って手続きを進められるが、例外もあるので注意が必要。
- 安易に協議全体を「やり直し」てしまうと、高額な贈与税がかかるリスクがある。
予期せぬ不動産の発見は、確かに戸惑う出来事です。しかし、一つひとつ手順を追って対応すれば、解決につながることが多い問題です。ただし、ご自身の判断だけで進めてしまうと、税務上の問題や、相続人間の新たなトラブルに発展しかねません。
「このケースはバスケット条項を使えるのか」「追加の協議書はどうやって作ればいいのか」など、少しでも判断に迷うことがあれば、私たち相続の専門家にご相談ください。あなたの状況を丁寧にお伺いし、状況に応じた進め方をご提案いたします。一人で抱え込まず、まずはお気軽にお声がけください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
公正証書が無理でも大丈夫。最低限の自筆証書遺言が持つ本当の意味
遺言は「公正証書が一番」は本当。でも、それが難しい…
この記事にたどり着かれたということは、ご家族を想い、遺言書の必要性を感じていらっしゃるのですね。きっと、いろいろとお調べになる中で「遺言書は、公正証書で残すのが一番安全で確実だ」という情報を何度も目にされたことでしょう。
それは、専門家である私も含め、誰もが認めるところです。しかし、頭では分かっていても、現実にはそれが難しい…という方が大勢いらっしゃることも、私たちは日々の相談の中で痛感しています。
この記事は、理想論だけを語るものではありません。公正証書遺言の作成に踏み切れない、あなたと同じような悩みを抱える方のために、今すぐできる、そして非常に大きな意味を持つ「現実的な次の一手」について、丁寧にお話ししていきます。
法的な安全性で公正証書が最優先なのは間違いない
まず大前提として、公正証書遺言が法的に最も安全性が高い選択肢であることは間違いありません。公証人という法律のプロが作成に関与するため、形式の不備で無効になる心配がほとんどありません。また、原本が公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクも極めて低いです。
相続が始まった後も、家庭裁判所での「検認」という手続きが不要で、スムーズに不動産の名義変更や預貯金の解約に進める点も大きなメリットです。このように、遺言書にはいくつかの種類がありますが、あらゆる面で公正証書遺言が優れているのは事実なのです。
専門家としても本音では公正証書を勧めたいけれど…
私たち専門家も、ご相談にいらっしゃった方には、まず公正証書遺言をお勧めします。それが、ご本人様の意思を最も確実に実現し、残されるご家族の負担を最小限にする方法だと知っているからです。
しかし、理想を言えばそうですが、それが叶わないご事情があることも重々承知しています。「本当はそうしたいけれど、できないんです…」という切実な声に、私たちは何度も耳を傾けてきました。では、なぜ多くの方が公正証書遺言の作成をためらってしまうのでしょうか。そこには、いくつかの「現実的な壁」が存在するのです。
それでも公正証書が作れない「4つの現実的な壁」
「公正証書が良いのは分かっているけど、行動に移せない…」その背景には、決してご本人の意思が弱いからではない、やむを得ない事情があることがほとんどです。ここでは、多くの方が直面する4つの壁について、具体的に見ていきましょう。

①体力的・時間的な壁(入院、余命、遠距離)
まず、物理的な問題です。ご高齢であったり、病気を患っていたりして、公証役場まで足を運ぶのが難しいという方は少なくありません。入院中であれば、外出許可を得るのも一苦労です。
もちろん、公証人が病院やご自宅まで出張してくれる制度もあります。しかし、ご本人様の体調が良いタイミングと、公証人や証人のスケジュールを合わせるのは、想像以上に大変なことです。特に、余命宣告を受けられているような状況では、残された時間は限られており、悠長に準備を進めるわけにもいきません。
②精神的な壁(公証役場へのハードル、先延ばし)
次に、心理的なハードルです。「公証役場」と聞くと、なんだかお役所のような堅苦しい場所をイメージしてしまい、「専門家と話すのは緊張する」「こんなことを聞いたら恥ずかしいかもしれない」と、足を遠ざけてしまう方がいらっしゃいます。
また、「遺言なんて、まだ先のこと」「元気なうちは縁起でもない」と考えて、つい先延ばしにしてしまうのも、非常によくあることです。必要性は感じつつも、心のどこかで「まだ大丈夫」という気持ちが、行動にブレーキをかけてしまうのです。
③人間関係の壁(住民票が頼めない事情)
これは実務上、意外なほど大きな壁となる問題です。公正証書遺言を作成する際には、相続人に財産を譲る場合は続柄が分かる戸籍関係書類などが必要になり、相続人以外の人に譲る場合はその方の住民票の写しが必要になることがあります。
相手が法定相続人(配偶者や子など)であれば、ご自身で取得することも可能です。しかし、例えば内縁の妻や、長年お世話になったご友人、甥や姪など、相続人ではない第三者に財産を遺したい場合、相手に直接住民票の取得をお願いしなければなりません。
「遺言のことはまだ内緒にしておきたい」「いきなり住民票を頼んだら、相手を驚かせてしまうかもしれない」といったデリケートな人間関係から、どうしても書類の準備が進められない、というケースは決して珍しくないのです。
夫婦仲が良いご家庭ほど、実は何も書いていない
そして、最も見過ごされがちなのが、「うちは家族仲が良いから大丈夫」という思い込みです。特にご夫婦の仲が良く、お互いに「私の財産はすべてあなたに」と考えているご家庭ほど、かえって遺言書の準備が後回しにされがちです。
以前、ご相談にいらっしゃったAさんご夫婦もそうでした。お二人はとても仲が良く、将来のことはいつも二人で話し合っていました。私はお二人にこうお伝えしました。
「Aさん、奥さん、このままどちらかが先にお亡くなりになると、残された方は大変な思いをされるかもしれません。だから、今お二人が話し合っているそのお気持ちが、ちゃんと実現するように、書類を書きませんか?」
ここでいう「書類」とは、遺言書のことです。しかも、内容は驚くほどシンプルでいいのです。「どうせ全部、配偶者が相続するんでしょ?」と思っているご夫婦ほど、実は何も書いていない。そして、その「何もない」状態が、後々、残された配偶者を苦しめることになる可能性を、私たちは知っています。
だからこそ「シンプルな自筆証書遺言」という現実解
ここまで見てきたような、様々な「壁」を前にして、ただ立ち尽くすしかないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。ここで私たちが強くお勧めしたいのが、「シンプルな自筆証書遺言」という選択肢です。
これは、公正証書に比べて劣る「妥協案」ではありません。今のあなたにとって、最も賢明で、確実な「現実解」なのです。完璧な100点満点の遺言を目指すあまり、結局0点のままになってしまうより、まずは今すぐできる方法で、大切な意思を形にすること。それには、計り知れない価値があります。

たった一文の遺言が相続を劇的に変える
例えば、こんな一文だけの遺言書があったとします。
「私の全財産を、妻〇〇に相続させる」
この、たった一文が、相続手続きを劇的に変える力を持っています。その最大の効果は、「遺産分割協議が不要になる」ことです。
遺言書がない場合、相続人全員で「誰が、どの財産を、どれだけ相続するか」を話し合って遺産分割協議書を作成し、その内容に基づいて手続きを進めるのが一般的です。なお、不動産については、遺産分割協議をせずに法定相続分どおりの相続登記を行う方法もあります。もし相続人の中にお子さんがいれば、たとえ親子関係が良好でも、お子さんたちの協力が不可欠になるのです。この一文があることで、遺産分割協議が不要となり、手続きの負担を大きく減らせることがあります。ただし、自筆証書遺言の場合は家庭裁判所の検認が必要になることがあり、状況によっては遺留分への対応などが必要になる場合もあります。
配偶者が単独で不動産や預金手続きを進められる強み
遺産分割協議が不要になるメリットは、計り知れません。特に、残された配偶者にとっては、精神的にも手続き的にも大きな救いとなります。
遺言書があれば、他の相続人(例えばお子さんたち)から実印や印鑑証明書をもらう必要がなくなります。配偶者お一人で、法務局での不動産の名義変更(相続登記)や、銀行での預貯金の解約手続きを進めることができるのです。大切な方を亡くした悲しみの中で、煩雑な書類集めに奔走する必要がなくなる。この意味の大きさを、ぜひ知っていただきたいと思います。
最低限守るべき3つのルール【無効にしないために】
ただし、自筆証書遺言が法的な効力を持つためには、必ず守らなければならないルールがあります。内容はシンプルでも、形式は厳格です。無効になってしまっては元も子もありませんので、以下の3つのポイントだけは、必ず押さえてください。
- 全文、日付、氏名を自分で書く(自書)
パソコンや代筆は認められません。財産目録を除き、本文のすべてをご自身の筆跡で書いてください。日付は「令和〇年〇月〇日」のように、特定できる形で明確に記入します。 - 必ず押印する
認印でも構いませんが、実印の方が望ましいです。署名の横に、忘れずに印鑑を押してください。 - 財産が特定できるように書く
「不動産」「預貯金」と書くだけでなく、不動産であれば所在・地番など登記簿謄本の通りに、預貯金であれば銀行名・支店名・口座番号などを記載し、どの財産のことか第三者が見ても分かるようにしましょう。
これらのルールさえ守れば、自筆証書遺言は法的に有効なものとなります。さらに詳しく自筆証書遺言の注意点を知りたい方は、別の記事でも解説しています。また、作成した遺言書を法務局で保管してもらうことで、紛失のリスクをなくし、家庭裁判所での検認も不要にできる制度もありますので、活用を検討するのも良いでしょう。
より詳しい情報については、法務省の公式サイトもご参照ください。
参照:法務省:自筆証書遺言書保管制度について
完璧な遺言より「書いてある遺言」。専門家としての本音
ここまで、シンプルな自筆証書遺言が持つ大きな力についてお話ししてきました。最後に、相続の現場を数多く見てきた専門家として、私が心からお伝えしたいことがあります。
それは、「理想を追い求めるあまり、何もできずに時間だけが過ぎてしまうことが、何よりも一番のリスクだ」ということです。

「何もない」状態との差は天と地ほどある
不備があるかもしれない、内容が不十分かもしれない。自筆証書遺言には、確かにそうした不安がつきまといます。しかし、それでも遺言書が「ない」状態と「ある」状態とでは、天と地ほどの差があるのです。
遺言書がないばかりに、仲の良かったはずの家族が財産を巡って対立し、何年も口をきかなくなってしまった…そんな悲しい場面を、私たちは何度も見てきました。たとえシンプルな一文でも、あなたの意思が記された紙が一枚あるだけで、そうした最悪の事態の多くは防ぐことができるのです。0点と1点の差は、1点ではありません。それは、残された家族の未来を守れるかどうかの、無限大の差なのです。
まずは自筆で。将来、公正証書へ切り替える選択も
自筆証書遺言を「最終決定版」と考える必要はありません。「第一歩」と考えてみてはいかがでしょうか。
まずは、今の体力、今の時間、今の気持ちで、確実に残せる自筆証書遺言を作成する。そして将来、心身ともに余裕ができたタイミングで、より安全性の高い公正証書遺言に書き換える。遺言書は何度でも書き換えることができるのです。
このようにステップを踏むと考えれば、ぐっと心理的なハードルが下がりませんか?大切なのは、先延ばしにせず、今できる最善の行動をとることです。
それでも不安なら、専門家が伴走します
「自分一人で書くのは、やはり不安だ」「書き方は分かったけれど、内容に間違いがないか見てほしい」もしそう思われたら、どうか一人で抱え込まないでください。
私たち司法書士は、公正証書遺言の作成サポートはもちろん、自筆証書遺言の内容チェックや、より確実な書き方のアドバイスも行っています。専門家が伴走することで、自筆証書遺言の安全性は格段に高まります。あなたの「今、残したい」という大切な想いを、私たちがしっかりと法的な形にするお手伝いをいたします。
まとめ:今の意思を、今の形で残すという大切な選択
この記事では、公正証書遺言の作成が難しいと感じている方へ、シンプルな自筆証書遺言が持つ本当の意味と価値についてお伝えしてきました。
- 公正証書が理想ですが、現実には体力的・時間的・精神的な壁があります。
- しかし、「全財産を妻に相続させる」といったシンプルな自筆証書遺言でも、相続トラブルを防ぎ、手続きを劇的に簡略化する絶大な力があります。
- 完璧な遺言を目指すあまり何もしないで終わるより、不完全でも「遺言がある」状態にすることが、何よりも重要です。
大切なのは、完璧さよりも「存在すること」そのものです。あなたの今の意思を、今のあなたにできる形で残す。その小さな一歩が、愛するご家族の未来を末永く守る、何よりの贈り物になるはずです。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
限定承認とは?相続登記のやり方とデメリットを専門家が解説
限定承認とは?相続の3つの選択肢を比較
大切なご家族が亡くなられた後、残された財産をどう引き継ぐか、相続人には3つの選択肢が与えられています。それが「単純承認」「相続放棄」、そして今回詳しく解説する「限定承認」です。
もし、亡くなった方(被相続人)に借金などのマイナスの財産が全くなく、プラスの財産だけが残されているのであれば、迷うことはありません。すべての財産を引き継ぐ「単純承認」を選べばよいでしょう。
一方で、プラスの財産よりも明らかに借金の方が多い場合は、すべての財産を引き継がない「相続放棄」が有力な選択肢となります。
では、「借金があるかもしれないけれど、その全容がわからない」「借金はあるけれど、どうしても手放したくない実家や大切な財産がある」…こんな板挟みの状況では、どうすればよいのでしょうか。
そんなときに頼りになるのが「限定承認」です。限定承認とは、相続したプラスの財産の範囲内でだけ、借金などのマイナスの財産を返済すればよいという、いわば「単純承認」と「相続放棄」の“いいとこ取り”をしたような制度なのです。もし返済しても財産が残れば、それは相続人が受け取ることができます。

限定承認と相続放棄・単純承認の大きな違い
限定承認は非常に有用な制度ですが、他の2つの方法と比べて手続きが複雑なため、実務上は慎重な検討が必要になることが多い制度です。それぞれの違いを正しく理解し、ご自身の状況に最も適した選択をすることが重要です。
3つの制度の主な違いを、以下の表にまとめました。
| 項目 | 単純承認 | 相続放棄 | 限定承認 |
|---|---|---|---|
| 財産の承継 | すべての財産・債務を無制限に引き継ぐ | すべての財産・債務を一切引き継がない | プラスの財産の範囲内で債務を引き継ぐ |
| 手続きの要否 | 原則不要(法定単純承認に注意) | 家庭裁判所への申述が必要 | 家庭裁判所への申述が必要 |
| 申述の期限 | 原則なし(ただし熟慮期間内に相続放棄・限定承認をしない場合などは単純承認とみなされることがある) | 相続開始を知ってから 3ヶ月以内 | 相続開始を知ってから 3ヶ月以内 |
| 申述できる人 | - | 相続人単独で可能 | 相続人全員の同意が必要 |
| メリット | 手続きが簡単 | 借金を返済する義務がなくなる | ・想定外の借金リスクを回避できる ・財産が残る可能性がある ・特定の財産を守れる可能性がある |
| デメリット | 想定外の借金を負うリスクがある | プラスの財産もすべて手放すことになる | ・相続人全員の合意が必須 ・手続きが非常に複雑で時間がかかる ・税金(みなし譲渡所得税)がかかる場合がある |
特に重要なポイントは、限定承認は「相続人全員で一緒に」家庭裁判所へ申述しなければならないという点です。一人でも反対する相続人がいたり、連絡が取れない人がいたりすると、相続人全員で共同して申述する要件を満たせず、手続きの利用が難しくなる場合があります。これが、限定承認が選択されにくい最大のハードルと言えるでしょう。遺産を相続しないという意思表示と、法的な相続放棄の手続きは全く異なるため、相続人間の意思疎通が不可欠です。
限定承認が有効な3つのケースとは?
では、具体的にどのような状況で限定承認を検討すべきなのでしょうか。代表的な3つのケースをご紹介します。
- 借金の全容が不明でリスクを避けたい場合
故人が個人事業を営んでいたり、交友関係が広かったりする場合など、財産調査をしても借金の全体像がなかなかつかめないことがあります。「後から高額な借金が見つかったらどうしよう…」という不安を抱えながら単純承認するのは大きなリスクです。限定承認なら、万が一、後から多額の借金が発覚しても、相続財産の範囲でしか返済義務を負わないため、安心して手続きを進められます。 - 家業など特定の事業用資産を残したい場合
故人が会社を経営していて、その自社株が相続財産に含まれているケースです。相続放棄をすれば借金からは逃れられますが、会社の経営権まで失ってしまいます。限定承認であれば、会社の借入金などを相続財産で清算し、残った自社株を相続して事業を引き継ぐ、といった選択が可能になる場合があります。 - 価値以上に思い入れのある不動産(自宅など)を守りたい場合
相続財産に借金はあるものの、どうしても手放したくない実家や先祖代々の土地がある、というケースは少なくありません。限定承認の手続きでは、相続財産の売却が必要な場合は原則として競売に付すことになりますが、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って相当額を弁済することで、競売を止められる場合があります(民法第932条ただし書)。その結果として、不動産を手元に残せる可能性があります。
【相談事例】父の借金と実家…限定承認で不動産を守ったケース
ここで、実際に私がご相談を受けたケースを少しアレンジしてご紹介します。読者の皆様の状況と重なる部分があるかもしれません。
ご相談に来られたのは、お父様を亡くされた長男のAさん。相続人はAさんと、嫁いで家を出ている妹さんの二人でした。
お父様は長年、個人事業を営んでおり、ご自宅の土地建物といくらかの預貯金が残されていました。しかし、事業の状況はあまり良くなかったようで、金融機関や取引先からの借入があることも予想されました。問題は、その借金の正確な金額が誰にも分からないことです。
「父が残してくれた実家には、今、私の家族が住んでいます。どんなことがあっても、この家だけは手放したくないんです。でも、もし単純承認して、後からとんでもない額の借金が出てきたら…と思うと夜も眠れません。妹は『いっそ相続放棄した方が楽じゃない?』と言うのですが…。」
Aさんは、まさに「実家を守りたい」という強い想いと、「未知の借金」という大きな不安との間で、深く思い悩んでいらっしゃいました。
このような状況こそ、限定承認が力を発揮する典型的なケースです。私たちはAさんと妹さんに限定承認の仕組みを丁寧にご説明し、相続人全員の協力のもと、実家を守るための手続きを始めることになりました。

限定承認における相続登記のやり方【司法書士が解説】
限定承認の手続きは非常に複雑ですが、特に不動産が関わる場合、多くの方がつまずきやすいのが「相続登記(不動産の名義変更)」です。ここからは、司法書士としての専門知識を活かして、限定承認後の相続登記について詳しく解説します。
限定承認をしても相続登記は必要
まず、最も重要な大前提をお伝えします。家庭裁判所で限定承認の手続きが認められても、不動産の名義が自動的に相続人に変更されるわけではありません。
債務の清算手続きを経て、最終的に不動産が手元に残ることが確定したら、別途、法務局で相続登記の申請を行う必要があります。これは、通常の相続や遺贈で不動産を取得した場合と何ら変わりません。特に、2024年4月1日から相続登記が義務化されたため、この手続きを怠ると過料の対象となる可能性もありますので注意が必要です。
登記原因は「相続」、遺産分割協議書は不要
相続登記を申請する際、申請書に「登記の原因」を記載する必要があります。限定承認によって不動産を取得した場合、この登記原因は「相続」となります。
通常の相続では、相続人同士の話し合いの結果をまとめた「遺産分割協議書」を添付することが多いですが、限定承認の場合は少し異なります。限定承認は、遺産分割協議によって誰がどの財産を取得するかを決めるものではなく、あくまで清算手続きの結果として財産が残る制度です。そのため、原則として遺産分割協議書は登記の必要書類にはなりません。
相続登記の必要書類と注意点
限定承認による相続登記では、通常の相続登記で必要となる書類に加えて、この手続き特有の書類が必要になります。
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本類
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 固定資産評価証明書
- 限定承認申述受理証明書(家庭裁判所で取得)
最も特徴的なのが「限定承認申述受理証明書」です。これが、家庭裁判所で限定承認の申述が受理されたことを示す書類の一つであり、登記申請にあたり提出を求められることがあります。
また、注意点として、限定承認後に不動産が残余財産として残る場合でも、登記名義(共有・持分割合等)は事案や手続の経過により整理が必要になることがあります。もし特定の相続人が単独で取得したい場合は、前述した「先買権」の行使といった別の手続きや、相続人間での財産分けの合意などが必要となり、手続きはさらに複雑になります。安易な自己判断はせず、相続登記の専門家である司法書士に相談することをお勧めします。
最大のデメリット「みなし譲渡所得税」とは?
限定承認を検討する際に注意したい点の一つが、所得税法上の「みなし譲渡」による譲渡所得課税が生じ得ることです(一般に「みなし譲渡課税」などと呼ばれます)。単純承認でも相続財産を後日に売却すれば譲渡所得課税が問題になりますが、限定承認では状況によって、売却していなくても「時価で譲渡したもの」とみなされる課税関係が生じ得る点に注意が必要です。
「なぜ相続なのに、モノを売ったときの税金(譲渡所得税)がかかるの?」と疑問に思われるかもしれません。
これは税法上の特殊な扱いで、限定承認をした場合、亡くなった方(被相続人)から相続人へ、相続開始時の時価で財産を売却(譲渡)したものとみなされるからです。そして、その財産を購入した時の価格(取得費)と売却したとみなされた価格(時価)との差額(=儲け)に対して、所得税が課税されるのです。
この課税関係は被相続人に係る所得税として整理されるため、相続人が被相続人の最後の確定申告である「準確定申告」により申告・納付手続きを行う必要があります。この点が非常に分かりにくく、注意が必要なポイントです。なお、相続税の申告とは全く別の税金手続きとなります。
不動産があると税額が高額になりやすい理由
みなし譲渡所得税は、特に不動産が相続財産に含まれる場合に高額になりやすい傾向があります。
理由は、含み益(購入時からの値上がり益)が大きくなりやすいからです。
例えば、お父様が30年前に1,000万円で購入した土地が、相続開始時点では時価5,000万円になっていたとします。この場合、差額の4,000万円が譲渡所得として課税対象になる可能性があります(実際には経費などを差し引いて計算します)。長年保有していた不動産ほど、購入価格が低かったり、購入時の契約書が見つからなかったりするため、結果的に譲渡所得が大きくなり、納税額も数百万円、場合によってはそれ以上になることも珍しくありません。
限定承認によって守りたかったはずの不動産のために、想定外の高額な税金を現金で納めなければならない、という事態に陥るリスクがあるのです。

準確定申告が必要!4ヶ月以内の期限に注意
みなし譲渡所得税のもう一つの落とし穴は、その申告・納税期限です。
この税金は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署へ「準確定申告」を行って納税しなければなりません。
限定承認の手続き自体が、家庭裁判所への申述期限(3ヶ月)やその後の清算手続きで非常にタイトなスケジュールで進みます。その中で、この4ヶ月という税務申告の期限を意識し、並行して準備を進めるのは至難の業です。財産評価や取得費の調査にも時間がかかるため、気づいた時には期限を過ぎていた、ということにもなりかねません。
この税務リスクを正確に把握し、期限内に対応するためには、税理士など税務の専門家との連携が不可欠です。
【参照】
限定承認の手続き全体の流れと注意点
最後に、限定承認の手続き全体の流れをステップごとに確認しておきましょう。非常に多くの工程があり、専門的な対応が求められることがお分かりいただけるかと思います。
STEP1:相続財産と相続人の調査
まず最初に行うべきは、徹底的な調査です。預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借入金や保証債務などのマイナスの財産についても、できる限りの財産調査を行います。同時に、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集し、誰が法的な相続人になるのかを確定させます。前述の通り、限定承認は相続人全員の合意がなければ進められないため、この相続人調査は極めて重要です。
STEP2:家庭裁判所への申述(3ヶ月以内)
相続財産と相続人が確定し、相続人全員で限定承認を行う意思が固まったら、家庭裁判所への申述準備を進めます。申述書と財産目録を作成し、必要な戸籍謄本などを添付して、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。この期限は非常に厳格で、1日でも過ぎると原則として単純承認したとみなされてしまいますので、絶対に遅れてはいけません。(ただし、事情によっては期間の伸長申立が認められる場合もあります。)
STEP3:官報公告と債権者への弁済(清算手続き)
家庭裁判所で申述が受理されると、いよいよ清算手続きが始まります。相続人は、国の新聞である「官報」にお金を貸していた人(債権者)などに対して「限定承認をしたので、申し出てください」という公告(お知らせ)を掲載しなければなりません。また、すでに判明している債権者には、個別に手紙などで支払いを求める通知(催告)をします。
その後、申し出のあった債権者に対して、相続財産の中から法律の定めに従って公平に弁済(返済)を行っていきます。この一連の清算手続きは、法律の知識が必要で非常に煩雑です。相続人が数人ある場合には、家庭裁判所が相続人の中から「相続財産の清算人」を選任し、その清算人が相続財産の管理や債務の弁済に必要な一切の行為を行うことになります(民法第936条)。相続人が1人の場合などは相続人自身が進める場面もあるため、専門家のサポートを受けながら進めることが一般的です。
STEP4:残余財産の取得と相続登記
すべての債権者への弁済が終わった後、もしプラスの財産が残っていれば、その残余財産を相続人が取得することができます。この残った財産の中に不動産が含まれている場合に、最終ステップとして法務局での「相続登記」が必要となります。長い手続きを経て、ようやく不動産を自分の名義にすることができるのです。相続登記が完了するまでの期間は、事案の複雑さによって大きく異なります。
【参照】
まとめ:限定承認と相続登記は専門家への相談が不可欠
この記事では、限定承認の基本的な考え方から、最大の難関である「相続登記」と「みなし譲渡所得税」、そして手続き全体の流れまでを解説してきました。
限定承認は、借金があるかもしれない状況で、実家などの大切な財産を守るための非常に有効な手段です。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。
- ハードル1:相続人全員の合意
- ハードル2:3ヶ月という厳格な期限
- ハードル3:官報公告や弁済などの複雑な清算手続き
- ハードル4:別途必要となる相続登記手続き
- ハードル5:みなし譲渡所得税という税金リスク
これら多くのハードルを、ご自身だけですべて乗り越えるのは現実的ではないでしょう。特に、3ヶ月という短い期間の中で、財産調査、相続人調査、税金リスクのシミュレーション、そして相続人全員の意思統一まで行う必要があります。
「自分の場合は限定承認を選ぶべきだろうか?」「税金は一体いくらかかるんだろう?」と少しでも不安を感じたら、できるだけ早く、相続と登記の専門家である私たち司法書士にご相談ください。ご状況を丁寧にお伺いし、限定承認が最善の選択肢なのか、それとも他の方法があるのかを一緒に考え、複雑な手続きを正確かつスムーズに進めるお手伝いをさせていただきます。
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司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
相続登記にかかる期間は?完了までの目安と遅れる原因・対策を解説
相続登記にかかる期間はケースにより数週間~数ヶ月
ご親族が亡くなられ、不動産の相続登記を考え始めたとき、多くの方が「この手続きは、一体いつ終わるのだろう?」という疑問と不安を感じられます。結論からお伝えすると、相続登記が完了するまでの期間は、状況により数週間~数ヶ月程度と幅があります。
ただし、これはあくまで平均的なケースです。相続人の数や遺産の状況、話し合いの進み具合によっては、半年や1年以上かかることも珍しくありません。なぜこれほど期間に幅があるのでしょうか?それは、相続登記の手続きが大きく2つのステップに分かれているためです。

手続きは「準備期間」と「法務局での審査期間」に大別される
相続登記にかかる全体の期間は、以下の2つの合計で決まります。
- ① 書類などを準備する期間:相続人である皆様が主体となって進める期間です。戸籍謄本を集めたり、遺産の分け方を話し合ったりする時間で、相続の状況によって大きく変動します。
- ② 法務局での審査期間:必要書類をすべて揃えて法務局に登記申請をしてから、審査が完了するまでの期間です。これは法務局の管轄や混雑状況によって左右されます。
この記事では、相続登記の各ステップで具体的にどれくらいの時間がかかるのか、手続きが遅れてしまう原因、そしてスムーズに進めるためのコツを、相続専門の司法書士が分かりやすく解説していきます。
相続登記の「3年ルール」と相続放棄の「3ヶ月ルール」は別物
相続手続きの期間について考えるとき、多くの方が「3年」や「3ヶ月」といった数字を耳にして混乱されることがあります。ここで専門家として明確に整理しておきましょう。この2つは全く別のルールです。
| 相続登記の義務化 | 相続放棄 | |
|---|---|---|
| 期限 | 自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内 |
| 手続き先 | 不動産を管轄する法務局 | 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
| 内容 | 不動産の名義変更の申請 | プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も一切相続しないための申述 |
特に、借金などマイナスの財産が多い場合に検討する相続放棄の期限は3ヶ月と非常に短いため、注意が必要です。相続登記の3年という期間は、あくまで登記申請の義務に関するものであり、相続放棄の期限とは全く関係がないことを覚えておきましょう。
相続登記の流れと各ステップにかかる期間の内訳
それでは、相続登記が完了するまでの具体的な流れを4つのステップに分け、それぞれの期間の目安を見ていきましょう。ご自身の状況と照らし合わせながら、どこに時間がかかりそうかイメージしてみてください。

①戸籍収集・相続人調査:1週間~1ヶ月半
相続登記の第一歩は、「誰が相続人なのか」を公的に証明するために必要な戸籍謄本などを集めることです。
具体的には、亡くなられた方(被相続人)の出生から死亡までの一連の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)と、相続人全員の現在の戸籍謄本が必要になります。被相続人が転籍を繰り返している場合、全国の市区町村役場に郵送で請求する必要があり、すべての書類が手元に揃うまでに1ヶ月~1ヶ月半ほどかかることもあります。
最近では、本籍地以外の役所でも戸籍謄本を取得できる「戸籍の広域交付制度」も始まりましたが、一部取得できない戸籍があるなど、依然として時間がかかるケースは多いのが実情です。
②遺産分割協議・書類作成:1週間~数ヶ月以上
相続人が確定したら、次に相続人全員で「誰が、どの財産を、どれくらい相続するのか」を話し合います。これを遺産分割協議と呼びます。
相続人全員の意見がスムーズにまとまれば、1週間程度で完了することもあります。しかし、誰か一人でも納得しない人がいると、話し合いは長引きます。特にもめやすい不動産が含まれる場合などは、数ヶ月、場合によっては家庭裁判所での調停や審判に発展し、年単位の時間がかかることもあります。
話し合いがまとまったら、その内容を証明する「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名と実印の押印をします。この書類が、相続登記の重要な添付書類となります。
③法務局への申請準備:1日~2週間
戸籍謄本や遺産分割協議書など、必要な書類がすべて揃ったら、いよいよ法務局に提出する登記申請書を作成します。登記申請書には、不動産の情報を正確に記載し、法律のルールに従って作成する必要があります。
また、登記を申請する際には、不動産の評価額に応じて「登録免許税」という税金を納める必要があり、その計算も行わなければなりません。
これらの作業に要する日数は案件により異なりますが、司法書士が受任する場合でも、調査・書類の状況によっては数日以上かかることがあります。一般の方が行う場合も、状況により期間は前後します。
④法務局での登記審査:1週間~1ヶ月以上【2025年最新情報】
登記申請書と添付書類一式を不動産の所在地を管轄する法務局に提出すると、登記官による審査が始まります。この審査期間は法務局や時期により差があり、数週間~1か月超となることもあります。
【専門家コラム】法務局の審査期間が長期化する傾向に
ここ数年の実務上の変化として、特に都市部の法務局で審査期間が長くなる傾向が見られます。これは、新しい制度の導入などが影響していると考えられます。
例えば、東京法務局が公表している「登記完了予定日」では、庁・登記種別・申請日によっては、申請から完了予定日まで概ね1か月超となっている例があります。一方で、法務局や時期によっては、申請から完了まで1~2週間程度の例もあります。
このように、申請先の法務局によって審査期間には大きな差があるのが実情です。ご自身の不動産を管轄する法務局のウェブサイトで完了予定日が公表されていることが多いので、確認してみるのもよいでしょう。
審査が無事に完了すると、法務局から「登記識別情報通知書(いわゆる権利証)」などの完了書類が発行され、これをもって相続登記手続きはすべて終了となります。
要注意!相続登記の期間が長引く5つの原因
「平均は1~3ヶ月と聞いたのに、なぜ自分のケースはこんなに時間がかかるのだろう?」
相続登記がスムーズに進まず、長期化してしまうのには、いくつかの典型的な原因があります。ご自身の状況に当てはまるものがないか、確認してみましょう。

①遺産分割協議がまとまらない・難航する
相続登記が遅れる最大の原因は、遺産分割協議の難航です。相続人同士の仲が良くなかったり、特定の相続人が不動産を一人で相続したいと主張したり、不動産の評価額で意見が対立したりすると、話し合いは平行線をたどりがちです。
当事者同士での解決が難しい場合は、家庭裁判所での調停や審判に移行しますが、そうなると解決までに1年以上かかることも珍しくありません。
②相続人が多い・連絡が取れない・海外在住
相続人の数が多ければ多いほど、全員の足並みを揃えるのは大変になります。中には、疎遠で連絡先が分からない相続人や、協力に非協力的な相続人がいるかもしれません。
また、相続人が海外に住んでいる場合、書類のやり取りに時間がかかったり、日本での手続きとは異なる書類(サイン証明書など)が必要になったりするため、手続きが複雑化し、期間が長引く原因となります。
さらに、親の相続手続きをしないうちに子が亡くなる「数次相続」が発生すると、相続人の数がネズミ算式に増え、関係がさらに複雑になるケースもあります。
③必要書類の収集に手間取る(戸籍が点在しているなど)
亡くなった方が生涯で何度も転籍(本籍地を移すこと)を繰り返していると、戸籍謄本が日本全国の役所に点在していることがあります。一つずつ郵送で取り寄せる作業は、非常に手間と時間がかかります。
また、古い戸籍は手書きで書かれており、達筆すぎて文字が読めなかったり、旧字体が使われていたりして、内容を正確に解読するのが難しいこともあります。こうした作業に慣れていないと、戸籍の収集だけで数ヶ月を要してしまうこともあります。
④登記簿上の住所・氏名が現在のものと違う
法務局で取得する不動産の登記簿(登記事項証明書)に記載されている所有者の住所や氏名が、亡くなった方の最後の住民票や戸籍と一致しない、というケースは実務上よくあります。
例えば、不動産を買った後に引っ越しをしたが住所変更の登記をしていなかった場合などです。この場合、相続登記の前提として、登記簿上の住所を現在の住所につなげるための変更登記が別途必要になり、その分の時間と手間が余計にかかってしまいます。
⑤申請書類の不備による補正(差し戻し)
ご自身で登記申請をした場合に起こりがちなのが、書類の不備です。申請書への記載ミス、必要な添付書類の不足、登録免許税の計算間違いなどがあると、法務局から「補正」の連絡が来ます。
補正とは、書類の不備を訂正することで、訂正が完了するまで審査はストップしてしまいます。電話で指示された箇所を修正するだけで済む軽微なものもありますが、根本的な不備がある場合は、一度申請を取り下げて再申請が必要になることも。そうなると、さらに数週間から1ヶ月以上の時間がかかってしまいます。
相続登記を早く終わらせるための3つのコツ
では、どうすれば相続登記をスムーズに、そして早く終わらせることができるのでしょうか。専門家として、特に重要だと考える3つのコツをご紹介します。
①相続が発生したらすぐに戸籍収集に着手する
最も効果的なのは、相続が開始したら、他の何よりもまず戸籍収集を始めることです。なぜなら、相続人調査(戸籍収集)は、遺産分割協議、預貯金の解約、相続税申告など、あらゆる相続手続きのスタートラインになるからです。
誰が相続人なのかが確定しないことには、話し合いも始められません。時間がかかる可能性が高いこのステップを最初に終わらせておくことで、その後の手続きをスムーズに進めることができます。戸籍謄本の取得は、司法書士に代行を依頼することも可能です。
②遺言書や権利証など関係書類を事前に探しておく
亡くなった方が遺言書を遺していないか、必ず探しましょう。公正証書遺言など、法的に有効な遺言書があれば、原則として遺産分割協議は不要となり、手続きにかかる期間を大幅に短縮できます。
また、不動産の権利証(登記識別情報)や、毎年春に送られてくる固定資産税の納税通知書なども手元にあれば、不動産の特定がスムーズになり、財産調査の時間を短縮できます。相続が始まる前から、こうした重要書類の保管場所を家族で共有しておくことが理想です。
③手続きが複雑なら早めに司法書士へ相談する
私たちが相続のご相談をお受けする際、ご依頼者様からほぼ必ず聞かれるのが「費用はいくらかかりますか?」そして「期間はどのくらいかかりますか?」という2つの質問です。それだけ、皆様にとって手続きの見通しが立たないことが大きな不安なのだと、日々実感しています。
もし、ご自身のケースで「相続人が多くて大変そう」「遺産分割で揉めるかもしれない」「平日は仕事で役所に行く時間がない」など、少しでも不安を感じたら、できるだけ早い段階で私たち司法書士にご相談ください。
専門家に依頼することで、戸籍収集から遺産分割協議書作成、登記申請までをワンストップで、かつ並行して効率的に進めることができます。司法書士に依頼することで、書類不備による補正リスクを低減でき、手続全体がスムーズに進む可能性があります。ただし、法務局の審査や個別事情により、追加対応や期間の延長が生じる場合があります。詳しくは「相続登記を司法書士に依頼するメリット」のページでも解説していますので、ぜひご覧ください。
期間内に登記が難しい場合の「相続人申告登記」とは
「遺産分割協議が長引いて、どうしても3年の期限に間に合いそうにない…」
このような場合でも、ご安心ください。相続登記の義務化に合わせて、救済策となる新しい制度が設けられています。それが「相続人申告登記」です。
これは、遺産分割協議がまとまる前に、相続人の一人から「私が相続人の一人です」と法務局に申し出ることで、ひとまず相続登記の申請義務を果たしたとみなしてもらえる制度です。この申出により、(期限内に相続登記の申請をすることが難しい場合の)申請義務を簡易に履行するための手続として利用できます。なお、制裁は刑罰の「罰金」ではなく「過料」です。遺産分割が成立した場合などは、別途、正式な相続登記が必要になります。
ただし、これはあくまで一時的な措置です。不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりするためには、後日、遺産分割協議がまとまった段階で、正式な相続登記を改めて申請する必要があります。連絡が取れない相続人がいる場合など、期限内の登記が難しいときの選択肢として覚えておくとよいでしょう。
相続登記の期間に関するご相談は「いがり円満相続相談室」へ
ここまで見てきたように、相続登記にかかる期間は、ご家族の状況によって大きく変わります。スムーズに進めば1ヶ月で終わることもあれば、複雑なケースでは1年以上かかることもあり、ご自身だけで正確な見通しを立てるのは非常に難しいのが現実です。
「自分の場合は、あとどれくらいかかるんだろう?」
「3年の期限に間に合うか心配…」
「とにかく早く手続きを終わらせて、安心したい」
もしあなたがこのような不安をお持ちでしたら、ぜひ一度、私たち「いがり円満相続相談室」へご相談ください。相続を専門とする司法書士が、あなたの状況を丁寧にお伺いし、手続き完了までの具体的な流れと期間の目安を分かりやすくご説明いたします。
私たちは、単に手続きを代行するだけでなく、皆様の不安な心に寄り添い、「安心」をお届けすることを使命としています。初回のご相談は無料ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
