Archive for the ‘コラム’ Category

戸籍謄本の広域交付制度とは?相続手続きでの使い方と注意点

2025-10-25

相続の戸籍集めが楽に!広域交付制度をご存知ですか?

ご家族が亡くなられて相続の手続きを進めようとするとき、多くの方が最初に直面するのが「戸籍謄本(こせきとうほん)を集める」という作業です。「亡くなった方の出生から死亡までの戸籍が必要ですよ」と聞いて、途方に暮れてしまう方も少なくありません。

「本籍地が遠くて、どうやって請求すればいいんだろう…」
「結婚や転籍で本籍地が何度も変わっているみたいで、追いかけるのが大変そう…」
「一体、何通の戸籍を集めればいいのか見当もつかない…」

こうした戸籍集めの煩雑さは、相続手続きにおける大きな負担の一つでした。しかし、ご安心ください。2024年3月1日から始まった「戸籍の広域交付制度」によって、この戸籍集めがぐっと楽になりました。この記事では、相続手続きの専門家である司法書士が、この便利な新制度の使い方と注意点を分かりやすく解説していきます。

【司法書士の現場から】戸籍集めで多くの方が悩むこと

私たち司法書士が相続のご相談をお受けする中で、戸籍について多くの方がつまずかれるポイントがあります。

まず、「相続手続きには、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本がすべて必要」という点です。亡くなった時点の戸籍(除籍謄本)だけでは、法律上の相続人が誰であるかを確定できないため、生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍を遡って集める必要があるのです。中には、昔の縦書きで書かれた手書きの戸籍も含まれます。

さらに、多くの方は人生の中で結婚などを機に本籍地が変わります。例えば、北海道の札幌市で生まれ、結婚して神奈川県の横浜市に本籍を移し、その後さらに川崎市に転籍して亡くなられた、というケース。この場合、これまでは札幌市、横浜市、川崎市のそれぞれの役所に対して、個別に郵送などで請求手続きをしなければなりませんでした。これは本当に手間と時間がかかる作業でした。

戸籍の広域交付制度で何が変わったのか?

そこで登場したのが「戸籍の広域交付制度」です。この制度の最大のポイントは、「最寄りの市区町村の窓口で、他の市区町村が管理する戸籍謄本もまとめて請求できる」ようになったことです。

先ほどの例で言えば、お住まいの近くの役所の窓口に行くだけで、札幌市、横浜市、川崎市のすべての戸籍を一度に請求できるようになったのです。これにより、相続手続きで必要となる「出生から死亡まで」の戸籍集めが、原則として1か所の役場で完結できるようになりました。郵送でのやり取りにかかる時間や手間が大幅に削減され、手続きの負担が劇的に軽くなった、画期的な制度と言えるでしょう。

【自分でやってみよう】広域交付制度を利用する手順とメリット

「それなら自分で戸籍を集めてみようかな」と思われた方もいらっしゃるでしょう。ここでは、実際に広域交付制度を利用するための具体的な手順と、ご自身で手続きをされるメリットについて解説します。

請求できる人と必要なものリスト

まず、誰でもこの制度を利用できるわけではない点に注意が必要です。広域交付制度を使って戸籍を請求できるのは、以下の範囲の方に限られます。

  • 本人
  • 配偶者
  • 父母、祖父母など(直系尊属)
  • 子、孫など(直系卑属)

相続手続きで言えば、亡くなった方(被相続人)のお子さんや親御さんであれば、この制度を利用して被相続人の戸籍を集めることができます。広域交付制度では本人・配偶者・直系尊属・直系卑属のみが窓口請求の対象です。兄弟姉妹や甥姪は広域交付の本人請求の対象外ですが、正当な理由に基づく第三者請求や、司法書士等による職務上請求の制度が別にあるため、個別の事情によっては別途請求可能な場合があります。具体的な可否は事案により異なるため、事前に確認してください。この点は後ほど詳しく解説します。

次に、役所の窓口へ行く際に必要なものです。忘れると手続きができませんので、事前にしっかり準備しましょう。

【窓口での必要書類チェックリスト】

  • 顔写真付きの身分証明書
    (例:運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)
    ※官公署が発行した顔写真付きのものに限られます。健康保険証や年金手帳など、顔写真のないものは認められないためご注意ください。
  • 手数料
    窓口手数料は多くの市区町村で戸籍謄本が1通450円、除籍謄本・改製原戸籍が1通750円の例が多く見られますが、自治体により異なる場合があります。事前に請求先の市区町村の手数料を確認してください。何通取得することになるか分からない場合もあるので、少し多めに現金を持って行くと安心です。

請求する際は、窓口で「亡くなった〇〇(氏名、生年月日、最後の本籍地・筆頭者)の、出生から死亡までの一連の戸籍をお願いします」と伝えれば、職員の方が対応してくれます。

参考:戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)

費用を抑え、手続きをスムーズに進める大きなメリット

ご自身で戸籍を取得する最大のメリットは、何と言っても専門家への依頼費用を節約できることです。戸籍収集は司法書士などの専門家にも依頼できますが、当然ながら報酬が発生します。広域交付制度を使えば、ご自身で比較的簡単に集められるようになったため、その分の費用を抑えることができます。

また、事前に戸籍一式をご自身で揃えてから専門家に相談すると、その後の手続きが非常にスムーズに進みます。相続人の確定がすぐにでき、財産調査や遺産分割協議書の作成といった次のステップに素早く移れるため、結果的に相続手続き全体の時間短縮にも繋がります。

特に、亡くなった方がご自身の親御さんである場合などは、この制度のメリットを最大限に活かせます。とても便利になりましたので、ぜひ利用を検討してみてはいかがでしょうか。

要注意!広域交付制度が使えない3つのケース

非常に便利な広域交付制度ですが、万能ではありません。残念ながら「このケースでは使えない」という注意点も存在します。役所に行ってから「できなかった…」とがっかりしないためにも、事前にしっかりと確認しておきましょう。

タブレット画面の注意喚起マークを指さす手。戸籍の広域交付制度の注意点を説明するイメージ。

ケース1:兄弟姉妹・甥姪の戸籍は取得できない

最も重要な注意点がこちらです。亡くなった方にお子さんがおらず、ご両親もすでに他界している場合、相続人は兄弟姉妹や、先に亡くなった兄弟姉妹の子(甥・姪)になります。

しかし、先ほど説明した通り、広域交付制度を請求できるのは「直系」の親族などに限られます。兄弟姉妹や甥・姪は「傍系(ぼうけい)」の親族にあたるため、亡くなった兄弟(叔父・叔母)の戸籍を広域交付制度で取得することはできません。

この場合は、従来通り、それぞれの戸籍が保管されている本籍地の役所へ個別に請求する必要があります。これが、兄弟姉妹が相続人になるケースで戸籍集めが特に大変だと言われる大きな理由の一つです。

ケース2:郵送や代理人による請求はできない

広域交付制度は、なりすましなどを防ぐため、窓口での厳格な本人確認が必須とされています。そのため、以下の方法は認められていません。

  • 郵送での請求
  • 代理人(家族や知人など)による請求

「平日は仕事で役所に行く時間がない…」という方もいらっしゃるかと思いますが、必ず請求できるご本人が、顔写真付きの身分証明書を持って窓口に出向く必要があります。また、司法書士等の職務上請求(特定事務受任者による第三者請求)の取扱いについては、戸籍法上の規定があり、広域交付制度の運用や自治体ごとの取扱いにより異なります。職務上請求の可否・手続は事前に請求先の市区町村や法務局へ確認してください。

ケース3:一部の古い戸籍(コンピュータ化されていない戸籍)

現在、多くの市区町村で戸籍はコンピュータで管理されていますが、それ以前は紙の戸籍簿に手書きで記録されていました。相続手続きでは出生まで戸籍を遡るため、こうしたコンピュータ化される前の古い戸籍(改製原戸籍など)が必要になることがよくあります。

一部の市区町村では、このコンピュータ化されていない戸籍が広域交付の対象外となっている場合があります。その場合は、対象外となった戸籍だけ、本籍地の役所に直接請求しなければなりません。とはいえ、取得できる戸籍だけでもまとめて取れるメリットは大きいので、まずは最寄りの窓口で相談してみるのが良いでしょう。

【専門家が解説】戸籍集め、自分でやる?専門家に任せる?

ここまで広域交付制度のメリットと注意点を解説してきました。それを踏まえて、「自分の場合は、自分でやるべきか、それとも専門家に任せるべきか」を判断する基準を、専門家の視点からお伝えします。

「親の相続」なら、まずは自分で挑戦してみましょう

亡くなった方がご自身の親御さんや祖父母、あるいはお子さんといった「直系の親族」である場合は、広域交付制度のメリットを最大限に活用できます。

請求者であるご自身が制度の対象者となりますので、最寄りの役所の窓口へ行けば、まとめて戸籍を取得できる可能性が高いです。費用を抑えられ、手続きも比較的シンプルですので、まずはご自身で挑戦してみることを強くおすすめします。

「兄弟姉妹の相続」は司法書士への依頼がおすすめです

一方で、亡くなったのがご自身の兄弟姉妹である場合は、状況が大きく異なります。

先ほど解説した通り、このケースでは広域交付制度を利用できません。それだけでなく、集めなければならない戸籍の範囲が格段に広がるのです。

【兄弟姉妹相続で必要になる戸籍の例】

  • 亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍
  • 亡くなった方の両親(父・母)それぞれの出生から死亡までの戸籍
  • (すでに亡くなっている兄弟姉妹がいる場合)その方の出生から死亡までの戸籍

このように、関係者の本籍地を一つひとつ追いかけ、全国の役所に何度も請求を繰り返す必要があり、その手間と時間は計り知れません。相続人の中に一人でも連絡の取れない方がいると、さらに手続きは複雑になります。

こうした煩雑な作業は、時間と労力を節約するためにも、戸籍収集と相続手続きの専門家である司法書士に任せるのが賢明な選択と言えるでしょう。私たちにご依頼いただければ、必要な戸籍を正確かつスピーディーに収集し、その後の相続手続きまで一貫してサポートいたします。

もし、ご自身のケースで戸籍の集め方が分からなかったり、手続きが大変だと感じたりした際には、どうぞお気軽に当事務所にご相談ください。ご相談を承ります。
事務所名:司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号
担当:司法書士 猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
※ご相談内容によっては、お力になれない場合もございます。あらかじめご了承ください。

戸籍の収集でお困りなら、いがり円満相続相談室へ

まとめ:広域交付制度を上手に活用し、円満な相続準備を

今回は、2024年3月から始まった新しい「戸籍の広域交付制度」について解説しました。

この制度は、相続手続きにおける戸籍集めの負担を大きく減らしてくれる、とても便利な仕組みです。特に、亡くなった方がご自身の親御さんである場合など、直系の親族の相続では大きな力を発揮します。

ただし、兄弟姉e妹が相続人になるケースでは利用できないなど、いくつかの注意点も存在します。大切なのは、ご自身の状況を正しく理解し、制度を上手に活用することです。

もし、ご自身で手続きを進める中で「やっぱり難しい」「時間がない」と感じたら、一人で抱え込まないでください。私たちのような相続の専門家は、あなたの不安な心に寄り添い、円満な相続を実現するためのお手伝いをするためにいます。どんな些細なことでも構いませんので、いつでもお気軽にご相談いただければ幸いです。

アパートオーナーの認知症・相続対策|民事信託の活用事例

2025-10-23

【事例】父はアパートオーナー。認知症になったらどうなるの?

「最近、父の物忘れがちょっと気になるんです。父は川崎市内でアパートを経営しているのですが、もし認知症になってしまったら、あのアパートはどうなってしまうのでしょうか…」

先日、事務所の無料相談にいらっしゃった40代の男性(Aさん)は、深刻な表情でそう切り出しました。お父様はアパート経営一筋で、Aさん自身もいずれは長男として引き継ぐことを漠然と考えていたそうです。

「大規模な修繕もそろそろ考えないといけない時期ですし、空室も出てきています。父が元気なうちはいいですが、判断能力がなくなってしまったら、息子である私が代わりに契約手続きをしたりできるものなのでしょうか?」

Aさんのお話は、多くのアパートオーナー様とそのご家族が抱える、切実な悩みを象徴しています。

ご相談のポイント

  • 高齢のお父様がアパートを経営している。
  • 将来、認知症になった場合の経営の停滞が心配。
  • 経営は長男に任せ、いずれはアパートも長男に継がせたい。
  • 妹(長女)との間で揉め事が起きないよう、公平な相続も実現したい。
  • 裁判所が関与する成年後見制度は、できれば避けたい。

「もし父が認知症になったら、アパート経営は止まってしまうのでしょうか?そうなると、家賃収入が途絶えるだけでなく、資産価値もどんどん下がってしまいそうで…」

Aさんの不安は、決して大げさなものではありません。対策を講じていない場合、オーナー様の判断能力の低下は、アパート経営そのものの「凍結」に繋がる可能性があるのです。

この記事では、Aさんのようなお悩みをお持ちの方へ、なぜ経営が凍結してしまうのか、そしてその有効な対策の一つである「民事信託(家族信託)」を活用して、どのように大切な資産と家族の未来を守れるのかを、実際の解決事例に沿って分かりやすく解説していきます。

アパートの前に立つ高齢の父親と、将来の経営を心配するその息子。

オーナーが認知症になるとアパート経営が「凍結」する理由

なぜ、オーナー様が認知症になるとアパート経営が「凍結」してしまうのでしょうか。それは、アパート経営に関わる多くの行為が「法律行為」にあたり、それを行うには本人の明確な「意思能力」が必要だと法律で定められているからです。

認知症などにより意思能力が失われると、たとえご家族であっても、本人に代わって法律行為を行うことは原則としてできません。これが「資産凍結」の正体です。

大規模修繕や売却など、あらゆる契約行為がストップ

アパート経営は、日々の家賃管理だけでなく、様々な契約行為の連続です。オーナー様の判断能力が失われると、以下のような業務がすべてストップしてしまいます。

  • 新規の賃貸借契約:新しい入居者を迎えることができません。
  • 既存契約の更新・解除:家賃滞納者への対応も難しくなります。
  • 大規模修繕やリフォームの契約:建物の老朽化に対応できず、資産価値が下落します。
  • 管理会社との契約:新たな管理会社を探したり、契約内容を見直したりできません。
  • アパートの売却や建て替え:より有利な資産活用への転換が不可能になります。
  • 火災保険などの損害保険契約:万が一の際の備えもできなくなります。
  • アパートローンに関する手続き:金融機関との借り換え交渉なども行えません。

結果として、空室は増え、建物は傷み、家賃収入は減っていく…という負のスパイラルに陥ってしまうのです。

「法定後見制度」では柔軟な経営判断が難しい現実

「認知症になったら、成年後見制度を使えばいいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。確かに、判断能力が失われた後にとれる唯一の法的な手段が「法定後見制度」です。

しかし、この制度はあくまで「ご本人の財産を現状のまま守る」ことを最優先の目的としています。家庭裁判所が選んだ後見人が、本人の財産を管理するため、ご家族の意向がそのまま反映されるとは限りません。

特にアパート経営においては、以下のような大きな壁にぶつかります。

  • 積極的な投資ができない:相続税対策のための生前贈与や、収益性向上のための大規模修繕・建て替えといった「リスクを伴う積極的な資産活用」は、本人の財産を減らす可能性があるため、裁判所の許可が下りにくいのが実情です。
  • 柔軟な判断が難しい:後見人はすべての財産収支を裁判所に報告する義務があり、一つひとつの判断に時間がかかります。スピーディーな経営判断が求められる賃貸経営には、なじみにくい側面があります。
  • 家族が後見人になれるとは限らない:財産額が大きい場合など、司法書士や弁護士といった専門家が後見人に選ばれるケースも多く、その場合は専門家への報酬が継続的に発生します。

つまり、法定後見制度は「守り」の制度であり、アパート経営のような「攻め」の資産活用を継続していくには、不向きな場合が多いのです。だからこそ、判断能力がある「元気なうち」に対策を講じておくことが何よりも大切になります。

氷漬けにされたアパートの模型。オーナーが認知症になると資産が凍結されるリスクを象徴する画像。

解決策は民事信託(家族信託)|仕組みと登場人物を解説

そこで、アパートオーナー様の認知症対策として、近年注目されているのが「民事信託(家族信託)」という制度です。

難しそうに聞こえるかもしれませんが、仕組みはとてもシンプルです。一言でいえば、「元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理・運用を託しておく契約」のこと。まるで、大切な財産の管理・運用だけを、信頼できる家族の口座に「お引越し」させるようなイメージです。

民事信託には、主に3人の登場人物がいます。

  • 委託者(いたくしゃ):財産を託す人(例:お父様)
  • 受託者(じゅたくしゃ):財産を託され、管理・運用する人(例:長男Aさん)
  • 受益者(じゅえきしゃ):信託された財産から生じる利益(家賃収入など)を受け取る人(例:お父様)

この契約を結ぶことで、お父様(委託者)が認知症などで判断能力が低下した後も、長男Aさん(受託者)が自身の権限で、大規模修繕の契約や新規入居者との契約などをスムーズに進めることができます。

そして、アパートから得られる家賃収入は、これまで通りお父様(受益者)の生活費や介護費のために使われるため、お父様の生活が脅かされることもありません。これが、民事信託が認知症対策に有効な対策となり得る理由です。

【解決事例】民事信託で認知症と相続、二つの不安を解消

それでは、冒頭のAさんのケースは、民事信託を使ってどのように解決できたのでしょうか。当事務所では、民事信託と公正証書遺言を組み合わせることで、Aさんご家族が抱えていた「生前の認知症対策」と「将来の相続対策」という二つの大きな不安を、同時に解消するご提案をしました。

アパート経営は長男へ。贈与税をかけずに管理権を移す

まず、お父様を「委託者」、長男Aさんを「受託者」、そしてお父様を「受益者」とする民事信託契約を結びました。そして、信託する財産(信託財産)としてアパートを指定し、法務局で所有権の名義について信託の登記手続きを行いました。この登記により、名義は「受託者 長男A」となり、信託の目的などが公示されますが、登録免許税などの費用が発生します。

これにより、Aさんは信託契約で定めた権限の範囲内で、リフォームや新規賃貸契約、将来の売却など、アパート経営に関する契約行為を行えるようになりました。お父様の判断能力に左右されることなく、積極的で機動的な経営が可能になったのです。

ここで多くの方が心配されるのが税金の問題です。

「名義を息子に変えたら、贈与税がかかるのでは?」

受益者が変わらないなど一定の要件が満たされる場合には、贈与税の問題が生じにくいことがありますが、信託の設計や終了時の帰属などにより課税関係が変わるため、具体的には税理士などの税務専門家への確認が必要です。

遺言の機能も。「次の相続」まで見据えた設計

民事信託のもう一つの大きな強みは、契約内容を柔軟に設計できる点です。今回の契約書には、お父様に万が一のことがあった場合(相続発生時)の条項も盛り込みました。

具体的には、「委託者(父)の死亡によって信託は終了し、信託財産であったアパートは、長男Aさんが取得する」と定めたのです。これを「受益者連続型信託」「帰属権利者の定め」と呼びます。

これにより、信託契約で信託終了時の帰属を定めることで遺産承継を明確にできますが、第三者への対抗要件の具備や登記手続き、他の相続人との関係によっては、別途手続きや調整が必要になることもあります。

高齢の父の手から息子へと渡される家の鍵。民事信託による円滑な管理権の承継をイメージさせる写真。

長女へは遺言で配慮。家族全員が納得する円満相続へ

「アパートをすべて長男に継がせるとなると、長女の相続分がなくなって不公平にならないか?」

これも非常に重要なポイントです。特定の相続人に財産が偏ると、それが原因で家族間に亀裂が入ってしまうことも少なくありません。

そこで、今回は民事信託とは別に、「公正証書遺言」を作成することをご提案しました。お父様には、アパート以外の財産(預貯金などの金融資産)を長女に相続させる、という内容の遺言書をのこしていただいたのです。

このように、民事信託で事業承継の道筋をつけ、遺言書で他の相続人への配慮を行う。この二つを組み合わせることで、お父様の「長男に事業を継がせたい」という想いと、「子どもたちには平等に財産をのこしたい」という想いの両方を実現し、家族全員が納得できる円満な相続の準備を整えることができました。

民事信託と成年後見制度、どちらを選ぶべき?徹底比較

認知症への備えとして、民事信託と成年後見制度(特に、元気なうちに将来の後見人を決めておく「任意後見制度」)はよく比較されます。どちらが優れているというわけではなく、目的によって最適な選択肢は異なります。ご自身の家族に合った制度を選ぶために、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

比較項目民事信託任意後見制度
目的柔軟な財産管理・運用・承継本人の財産保護・身上監護
財産管理の柔軟性非常に高い(積極的な資産活用や相続対策も可能)低い(現状維持が原則)
開始時期契約締結後すぐ本人の判断能力低下後、家庭裁判所が監督人を選任してから
身上監護不可(介護契約や入院手続きはできない)可能(制度の主な役割の一つ)
監督機関原則なし(監督人を置く設計も可能)家庭裁判所(任意後見監督人を通じて)
費用初期費用(専門家への報酬)、ランニングコストは原則なし初期費用+監督人への継続的な報酬
民事信託と任意後見制度の比較

財産の積極的な管理・承継なら「民事信託」

比較表から分かる通り、「財産をただ守るだけでなく、アパート経営のように積極的に活用し、次の世代へスムーズに引き継いでいきたい」という目的であれば、民事信託が非常に有効です。

成年後見制度では難しい、相続税対策を目的とした不動産の購入や、収益性を高めるための建て替えなども、信託契約の範囲内であれば受託者の判断で実行できます。また、二次相続(次の世代の相続)以降の承継者を指定できるなど、長期的な視点での資産承継設計が可能な点も大きなメリットです。

本人の生活・療養の支援が主目的であれば「成年後見制度」

一方で、民事信託にはできないことがあります。それが「身上監護」です。身上監護とは、本人の生活や健康、療養に関する法律行為(例:介護サービスの契約、入院手続き、要介護認定の申請など)を代理することです。

これらの手続きは、財産管理とは別の問題であり、受託者の権限には含まれません。もし、財産管理以上に、ご本人の身の回りの契約手続きのサポートが心配なのであれば、任意後見制度の利用を検討すべきでしょう。

なお、両方の制度のメリットを活かすために、民事信託と任意後見契約を併用するという万全な対策をとることも可能です。

民事信託を検討する際の注意点(デメリット)

多くのメリットがある民事信託ですが、万能ではありません。検討する際には、以下の注意点も理解しておく必要があります。

  • 信頼できる受託者が必要:財産管理を任せることになるため、受託者には家族からの深い信頼と、ある程度の責任感が求められます。適任者がいない場合は利用が難しいかもしれません。
  • 身上監護はできない:前述の通り、介護施設の入所契約など、本人の身体に関する法律行為は民事信託の範囲外です。
  • 専門家への依頼費用がかかる:オーダーメイドの契約書作成や不動産登記など、専門的な知識が不可欠なため、司法書士などの専門家への報酬が発生します。
  • 税務上の注意点がある:信託期間中に不動産を売却して利益が出た場合、他の不動産所得との損益通算ができないなど、特有の税務ルールがあります。
  • 新しい制度である:比較的新しい制度のため、対応できる専門家が限られているのが現状です。

これらのデメリットを理解した上で、それでも民事信託がご家族にとって有効な選択肢なのかどうか、専門家と相談しながら慎重に判断することが大切です。

まとめ|元気なうちの「ひと手間」が家族の未来を守ります

アパートオーナー様の認知症対策は、決して先延ばしにしてよい問題ではありません。判断能力が失われてからでは、打てる手は「法定後見制度」に限られてしまい、ご家族が思い描くような柔軟な資産活用や承継は難しくなってしまいます。

元気なうちに、ご家族で将来のことを話し合い、民事信託という「ひと手間」をかけておくこと。それが、資産凍結のリスクから大切なアパート経営を守り、ご家族の円満な未来へと繋がる、有効な方法の一つです。

司法書士からの一言アドバイス

民事信託は、生前贈与や遺言、後見制度など、様々な制度の特徴を活かせる可能性がある優れた制度ですが、その設計はご家族の状況によって全く異なります。当事務所では、ご実家やアパートといった不動産の認知症対策に関するご相談を多くいただいております。これまでの経験に基づき、ご家族にとってより良いプランをご提案させていただきます。

「うちの場合でも民事信託は使えるだろうか?」「何から始めたらいいか分からない」

そんな漠然とした不安をお持ちでしたら、どうか一人で抱え込まずに、当事務所にご相談ください。司法書士の猪狩佳亮が、あなたの家族の物語をお伺いし、最適な解決策を一緒に見つけ出すお手伝いをさせていただきます。

初回のご相談は無料です(事務所名:司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所、代表者:司法書士 猪狩佳亮、所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、所属:神奈川県司法書士会)。まずはお気軽にお問い合わせください。

民事信託に関する無料相談はこちら(事務所名:司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所、代表者:司法書士 猪狩佳亮、所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、所属:神奈川県司法書士会)

相続登記で私道の見落とし?放置のリスクと解決策を専門家が解説

2025-10-21

「まさかうちも?」相続登記で私道を見落としていませんか?

「親から相続した実家を売却しようとしたら、不動産会社から『家の前の道路(私道)の登記が漏れていますね』と指摘された…」
「自分で頑張って相続登記を済ませたけれど、そういえば道路のことなんて考えたこともなかった。もしかして、うちも…?」

このようにお考えになり、ひやっとした経験はございませんか?

相続手続きの中でも、特に不動産の名義変更である「相続登記」は専門的な知識が必要です。特に、ご自宅の敷地だけでなく、それに接する「私道」の共有持分は、意外なほど見落とされがちな落とし穴なのです。

私道の登記漏れは、最初は小さな見落としかもしれません。しかし、それを放置してしまうと、後になって「不動産が売れない」「家が建て替えられない」といった深刻な事態を引き起こす可能性があります。さらに、一度終えたはずの遺産分割協議を、何年も経ってから相続人全員でやり直さなければならない…という、考えただけでも頭が痛くなるような面倒な手続きにつながることも少なくありません。

この記事では、相続を専門とする司法書士の視点から、

  • なぜ私道の相続登記は見落とされやすいのか
  • 登記漏れを放置する深刻なリスク
  • 専門家が行う私道の調査方法とその留意点
  • 登記漏れが発覚した際の具体的な解決策

などを、分かりやすく解説していきます。今まさに不安を感じているあなたの心が少しでも軽くなり、「どうすれば良いか」という次の一歩を踏み出すためのお手伝いができれば幸いです。

なぜ私道の相続登記は見落とされやすいのか?

「どうして気づかなかったんだろう…」とご自身を責めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ご安心ください。私道の相続登記漏れは、決して珍しいことではなく、誰にでも起こりうる問題です。それには、はっきりとした理由があります。

原因1:固定資産税が非課税なので通知書に載らない

私道の登記が見落とされる大きな原因の一つに、固定資産税が非課税となるケースがあることです。私道のうち、要件を満たして「公共の用に供する道路」と認められる場合は固定資産税が非課税となることがあり、この場合、課税明細に載らない私道が存在することになります。

地域住民の通行のために使われている「公衆用道路」とみなされる私道は、多くの場合、固定資産税が課税されません。そのため、毎年春ごろに市区町村から送られてくる「固定資産税・都市計画税 納税通知書」に同封されている課税明細書に、私道の情報が記載されないのです。

多くの方が、この課税明細書を見て相続不動産をリストアップするため、そこに記載のない私道の存在に気づくことができず、結果として相続登記から漏れてしまうのです。

原因2:「道路は共有財産」という思い込み

「家の前の道は、近所のみんなで使っている道路だ」という感覚も、見落としの一因です。

特に、複数の家で共有している私道の場合、それが個人の財産(正確には、不動産の一部を他の人と共有している「共有持分」という権利)であるという意識が薄れがちです。そのため、亡くなった方の財産として認識されず、相続人全員で財産の分け方を話し合う「遺産分割協議」の議題にも上がらないまま、手続きが進んでしまうことがあります。

登記漏れを放置する深刻なリスク|売れない・建てられない!

「登記が漏れていても、今まで特に困らなかったし…」と軽く考えてしまうのは危険です。私道の相続登記漏れを放置すると、将来、ご自身の資産計画に大きな影響を及ぼす可能性があります。

家の売却を象徴する看板。私道の登記漏れが売却の障害になるリスクを示唆している。

リスク1:不動産を売りたい時に売却できない

最も現実的なリスクが、不動産の売却時です。いざ実家を売却しようとしても、私道の共有持分の名義が亡くなった方のままでは、法的に所有権が買主に移転できません。

そのため、不動産会社や金融機関から私道の登記状況を理由に売却や融資手続きに制約がかかることがあります。結果として、売りたいタイミングで不動産を売却できなくなってしまうのです。

リスク2:家を建て替えられない(再建築不可)

建築基準法では、建物を建てる敷地は「幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならない」という「接道義務」が定められています。この「道路」には、当然ながら私道も含まれます。

もし、相続した土地が私道にしか接していない場合、その私道の共有持分を相続登記していなければ、法的には「道路に接していない土地」とみなされてしまう恐れがあります。そうなると、「再建築不可物件」となり、家の建て替えはもちろん、大規模なリフォームもできなくなる可能性があります。これは、不動産の資産価値を著しく下げる要因となります。

リスク3:時間が経つほど手続きが複雑化する

登記漏れを放置する期間が長引けば長引くほど、解決は困難を極めます。

例えば、10年前のお父様の相続で私道の登記が漏れていたとします。その後に、相続人の一人であったお母様が亡くなられた場合、どうなるでしょうか。この場合、当初の相続人(子など)だけでなく、お母様の相続人(子が複数いればその全員)も含めて、改めて遺産分割協議をしなければならなくなります。

さらに世代が進むと、甥や姪など、普段ほとんど交流のない親族まで手続きに巻き込む必要が出てきます。関係者がネズミ算式に増え、全員から実印をもらうだけでも大変な労力と精神的な負担がかかることになるのです。

相続財産に私道があるか?プロが行う調査方法とその留意点

「うちの場合は大丈夫だろうか?」とご心配な方のために、私たち司法書士が実際に行う調査方法のステップをご紹介します。ご自身で確認する際のヒントにもなりますが、正確な判断には専門知識が必要な場合も多いことをご理解ください。

司法書士が公図を指さしながら、相続財産である私道の調査を行っている様子。

ステップ1:手元の資料を確認する(権利証・売買契約書)

まずは、ご自宅に保管されている書類を確認してみましょう。特に重要なのが、亡くなった方が不動産を取得した際の「登記済権利証」(または「登記識別情報通知」)「売買契約書」です。

これらの書類の「不動産の表示」という欄を注意深く見てください。ご自宅の土地(地目:宅地)のほかに、「所在」「地番」が異なり、「地目」が「公衆用道路」となっている土地や、「持分 〇分の〇」といった記載があれば、それが私道の共有持分である可能性が高いです。

ステップ2:役所で「名寄帳」を取得する

次に、不動産が所在する市区町村役場(東京23区の場合は都税事務所)で「名寄帳(なよせちょう)」を取得します。名寄帳とは、その市区町村内において、ある特定の人が所有する不動産を一覧にしたものです。

ただし、ここで注意が必要です。前述の通り、固定資産税が非課税の私道はこの名寄帳に記載されていない場合があります。名寄帳は有力な手がかりですが、これだけで「私道はない」と断定するのは早計です。

ステップ3:法務局で「公図」と「登記事項証明書」を読み解く

最も確実な調査は、法務局での調査です。

まず「公図(こうず)」を取得し、ご自宅の土地がどのようになっているか、地図上で確認します。家の前の道路部分に地番が付されている場合、それは私道である可能性が高いです。公図から私道と思われる部分の地番を特定します。

次に、その地番の「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得します。この書類の「権利部(甲区)」を見れば、現在の所有者が誰で、共有の場合は誰がどのくらいの持分を持っているかが正確に分かります。ここに亡くなった方のお名前があれば、相続登記が必要な財産ということになります。なお、これらの書類は法務局の窓口のほか、オンラインでの取得も可能です。

【司法書士の現場】実際の私道調査事例

先日、戸建てのご実家を相続された方から相続登記のご依頼がありました。いつものように、まずはお客様からお預かりした固定資産税の課税明細書をもとに、相続する不動産(建物と敷地)を確認しました。

一見すると、これで全てのように思えます。しかし、私たちは必ず法務局で公図を取得して周辺状況を確認します。事務所に戻って公図を広げ、地形をじっくりと確認すると、どうもご自宅前の道路は私道ではないか、という疑念が浮かびました。

すぐさまその道路部分の地番を特定し、登記事項証明書を取得したところ、やはり、その道路は近隣の数軒の所有者で共有されている私道であり、亡くなったお父様も共有持分をお持ちであることが判明しました。

もし課税明細書だけの確認で手続きを進めていたら、この重要な私道は見落とされ、将来お客様が売却などで困ってしまうところでした。この事例のように、漏れなくすべての不動産を相続登記するには、課税明細書だけに頼らない、専門家による正確な調査が不可欠なのです。

私道の登記漏れが発覚!今からでも間に合う解決策

もし、ご自身のケースで私道の登記漏れが発覚したとしても、決して慌てる必要はありません。今からでも、正しい手順を踏めばきちんと解決できます。ここでは、その具体的なステップを解説します。

相続人である家族が円満に集まり、私道に関する遺産分割協議書に署名・捺印している場面。

1. 相続人全員で再度「遺産分割協議」を行う

まず最初に行うべきことは、相続人全員で、登記が漏れていた私道について改めて話し合うことです。これを「遺産分割協議」と呼びます。

「この私道の持分は、誰が相続するのか」を決めます。一般的には、その私道に接しているご自宅の敷地を相続した方が、利便性を考えて私道の持分も合わせて相続するケースがほとんどです。

2. 私道に関する「遺産分割協議書」を作成する

相続人全員の話し合いがまとまったら、その内容を法的な効力のある書面、「遺産分割協議書」として作成します。

この書類には、登記事項証明書に記載されている通りに、私道の所在、地番、地目、地積、そして誰がどの持分を相続するのかを正確に記載する必要があります。そして、相続人全員が署名し、実印を押印します。この遺産分割協議書が、後の登記申請で重要な添付書類となります。

3. 法務局へ追加で相続登記を申請する

作成した遺産分割協議書と、その他必要となる戸籍謄本などを揃えて、管轄の法務局へ私道の共有持分に関する相続登記を申請します。申請が受理されれば名義変更が行われますが、書類不備や関係者の同意が得られない場合は追加の手続(戸籍の取得、相続人の特定など)が必要になることがあります。

これらの手続きは、書類の収集や作成に専門的な知識を要するため、ご自身で行うのは大変な労力がかかります。スムーズかつ確実に行うためには、司法書士にご依頼いただくのが一般的です。

私道だけじゃない!見落としやすい相続財産

実は、相続登記で見落とされやすい不動産は私道だけではありません。もう一つ、注意が必要なのがマンションの共用部分の土地です。

通常、マンションの部屋(専有部分)を所有していると、その敷地(土地)の権利も「敷地権」として一体化して登記されています。しかし、古いマンションなどでは、敷地とは別の土地に建てられた集会所、駐車場、ゴミ置き場などの土地の権利が、敷地権とは別に、各部屋の所有者で共有しているケースがあります。

これも私道と同様、固定資産税が課税されていなかったり、権利を持っているという意識が薄かったりするため、登記から漏れやすい財産です。心当たりのある方は、一度確認してみることをお勧めします。

親身に相談者の話を聞くいがり綜合事務所の司法書士。専門家への相談を促している。

不安なままにせず、まずは専門家にご相談ください

ここまでお読みいただき、相続財産に私道が含まれているかの調査や、登記漏れが発覚した場合の手続きは、ご自身で完璧に行うのがいかに難しいかを感じていただけたかと思います。公図や登記事項証明書を正確に読み解き、法的に有効な書類を作成するには、やはり専門的な知識と経験が不可欠です。

また、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない場合には10万円以下の過料が科される可能性があると定められています。私道の登記漏れも、この義務化の対象となります。

「もしかしたらうちも…」という不安を抱えたまま、一人で悩んでいても問題は解決しません。そのような時こそ、私たち相続の専門家である司法書士を頼ってください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所では、お客様一人ひとりのお話にじっくりと耳を傾け、何が最善の解決策なのかを一緒に考えさせていただきます。初回のご相談は無料ですので、どうぞ安心して、現在の状況をお聞かせください。専門家へのご相談が、あなたの不安を解消し、問題を解決する一助となる可能性があります。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所
代表 司法書士 猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
〒210-0012 神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号

相続登記に関する無料相談はこちら

忙しい方の相続手続きを丸ごと代行|費用相場と専門家選び

2025-10-16

「忙しくて時間がない…」相続手続き、一人で抱えていませんか?

大切なご家族が亡くなられた深い悲しみの中、心も体も落ち着かない日々をお過ごしのことと存じます。

しかし、現実には待ってくれないのが相続手続きです。戸籍謄本の収集、銀行口座の解約、不動産の名義変更…。考えただけで気が遠くなるような、複雑で多岐にわたる手続きが山積みになっています。

特に、働き盛りで毎日お忙しくされている方にとっては、

  • 「平日に休みを取って役所や銀行に行く時間なんてない…」
  • 「仕事や子育てに追われて、手続きのことを考える余裕がない」
  • 「そもそも、何から手をつけていいのか全く分からない」
  • 「大切な人を亡くしたばかりで、今は何もする気になれない」

このように感じ、一人で途方に暮れてしまうのは、決してあなただけではありません。

そんな時、どうか一人で抱え込まないでください。
面倒で複雑な相続手続きの多くは、専門家が代行できます。ただし、法令上の制限により代行できない手続きもございますので、ご依頼いただく際には業務範囲を明確にご説明いたします。

この記事では、お忙しいあなたが心穏やかな日常を取り戻せるよう、相続手続きを専門家に代行してもらうメリットや費用、そして後悔しないための専門家選びのポイントを、相続の専門家である私たちが分かりやすく解説します。

【解決事例】お忙しい相続人様に代わり、相続手続きを丸ごと代行

当事務所にご相談いただいた、実際の事例をご紹介します。ご相談者様と同じようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。(※プライバシー保護のため、事例は内容を匿名化し、当該依頼者の書面による同意を得た上で掲載しています。)

先日、お母様を亡くされた40代のご長男が相談にいらっしゃいました。相続人はご長男のほか、ごきょうだいの計3名。遺産は複数の銀行預金、有価証券、ご自宅の土地建物という状況でした。ただ、有価証券の一部はどの証券会社に預けているか不明な点がありました。

ご長男は「毎日残業続きで手続きどころではないし、妹たちも仕事と子育てで忙しい。とにかく自分たちがやることは最小限にして、できる限り丸投げしたい」という切実なご要望をお持ちでした。

親御様の相続では、相続人であるお子様たちがお忙しい現役世代であることがほとんどです。お仕事の都合で役所や銀行に行く時間が取れない、ようやく時間ができても窓口で長時間待たされたり、書類の不備でやり直しを求められたり…。時間と手間ばかりかかり、精神的にも疲弊してしまうお気持ちは、私自身も経験があるため痛いほど分かります。

そこで当事務所では、相続手続きのほとんどを代行する「相続フルサポートサービス」をご提案しました。相続人の皆様にしていただくことは、基本的に以下の4点だけです。

  1. 必要な書類の一時預かり(対面での受領・原本確認)を行います。重要書類の保管方法、返却方針、紛失時の対応については契約書に明記し、適切に管理します。
  2. 当事務所が作成した委任状と遺産分割協議書への署名・捺印
  3. 印鑑証明書のご取得(マイナンバーカードがあればコンビニでも可能です)
  4. ご家族での遺産の分け方についてのお話し合い

これら以外の手続きは、すべて当事務所が代行できることをご説明すると、ご長男は大変安心されたご様子でした。手続きの進捗報告は、ご希望に合わせてメールやLINE、チャットワークなど柔軟に対応いたします。

本件で課題となっていた不明な証券会社については、専門家として「登録済加入者情報の開示請求」という手続きを行い、ネット証券会社に株式が預託されていることを突き止め、無事に手続きを進めることができました。幸い、相続人の皆様のご関係は良好で、遺産の分け方もスムーズに決まったため、その後の銀行口座の解約や不動産の相続登記も滞りなく完了しました。

当事務所では、このように相続人の方のお気持ちに寄り添い、ご負担をできる限り最小限にすること。そして、法令の範囲内で代行可能な手続きについては可能な限り対応するというスタンスで、日々の業務に取り組んでいます。なお、法令上の制限や本人確認が必要な手続きなど、代行が制限される場合があることについては、事前に業務範囲として明確にご説明いたします。

相続手続きの代行(丸投げ)で得られる3つのメリット

相続手続きを専門家に「丸投げ」することには、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、代表的な3つのメリットをご紹介します。

相続手続きを専門家に代行依頼する前と後での、時間と心の余裕の違いを表現したイメージ

1. 平日に休む必要なし!時間と心の余裕が生まれる

相続手続きの最大のメリットは、時間的・精神的な負担から解放されることです。

相続手続きの多くは、役所や金融機関、法務局の窓口が開いている「平日の日中」に行う必要があります。戸籍謄本を集めるために複数の役所を回ったり、銀行で何時間も待たされたり、慣れない書類作成に頭を悩ませたり…。お仕事をされている方にとって、これだけの時間を確保するのは至難の業です。

専門家に依頼すれば、こうした煩雑な手続きをすべて代行してもらえます。あなたは仕事を休む必要も、貴重な休日を潰す必要もありません。生まれた時間の余裕は、ご自身の心と体を休めたり、故人をゆっくりと偲ぶ時間に充てることができます。大切な方を亡くされた直後の大変な時期だからこそ、専門家を頼ることで得られる心の平穏は、何物にも代えがたい価値があるはずです。

2. ミスなく迅速に完了|複雑な手続きも正確に処理

相続手続きは、専門的な知識が求められる場面が数多くあります。例えば、古い戸籍謄本の解読、法律に則った遺産分割協議書の作成、複雑な不動産の名義変更(相続登記)など、一般の方がご自身で行うと、思わぬミスや見落としが発生しがちです。

もし書類に不備があれば、役所や法務局から何度も修正を求められ、かえって時間がかかってしまうことも少なくありません。

その点、経験豊富な専門家は、手続きの全体像と注意点を熟知しています。どこに、どのような書類を、どの順番で提出すればよいかを正確に把握しているため、結果として、ご自身で進めるよりも早く、そして確実に手続きを終えられる傾向にあります。ただし、法務局や金融機関の対応状況、相続人間の合意形成の進捗により、所要期間は変動する可能性があります。

3. 相続トラブルを予防|中立な専門家が円満な遺産分割を支援

残念ながら、相続をきっかけに親族関係が悪化してしまうケースは少なくありません。財産が絡むと、普段は仲の良い兄弟姉妹でも、感情的な対立が生まれやすくなります。

このような時、法律の専門家が中立的な第三者として間に入ることで、冷静な話し合いを促進する助けとなります。特定の相続人に手続きの負担が偏ることもなく、法律に基づいた公平な視点からアドバイスを行うため、相続人全員が納得感を持って遺産分割協議を進めやすくなります。

専門家に依頼することは、単に手続きを代行してもらうだけでなく、大切なご家族との良好な関係を守り、円満な相続を実現するための有効な手段でもあるのです。

相続手続きは誰に頼む?依頼先ごとの業務範囲と費用相場

「いざ専門家に頼もうと思っても、誰に相談すればいいのか分からない」というのも、よくあるお悩みです。ここでは、相続手続きに関わる主な専門家と、その業務範囲や費用相場を分かりやすく比較解説します。

司法書士、税理士、弁護士など相続手続きの専門家ごとの役割を象徴するアイテムが並べられた机
依頼先主な業務範囲費用相場(目安)特徴
司法書士戸籍収集、財産調査、遺産分割協議書作成、預貯金・不動産の名義変更など、相続手続き全般遺産承継業務:25万円~不動産の名義変更(相続登記)は独占業務。相続手続きの窓口として最適。
税理士相続税の計算・申告、準確定申告遺産総額の0.5%~1.0%相続税の申告が必要な場合は必須の専門家。
行政書士戸籍収集、遺産分割協議書作成、自動車の名義変更など10万円~書類作成が中心。不動産や預貯金の名義変更(登記・解約)の代理は不可。
弁護士相続トラブルの交渉・代理、調停・審判の代理が主な業務となります。訴訟や高度な法的代理を必要とする紛争が生じた場合には、弁護士への依頼が必要となるケースが多くなります。着手金20万円~+成功報酬相続人間で争いがある(紛争)場合に頼れる専門家。
信託銀行遺産整理業務全般最低報酬100万円~費用は高額になる傾向がある。司法書士や税理士への外注費が別途かかる場合も。
相続手続きの依頼先と業務範囲・費用相場の比較

司法書士:不動産がある相続手続きの要

司法書士は、相続手続きにおいて中心的な役割を担う専門家です。その最大の理由は、不動産の名義変更(相続登記)を代理できる唯一の専門家だからです。

さらに、司法書士は「遺産承継業務」として、戸籍収集から財産調査、遺産分割協議書の作成、預貯金の解約・名義変更まで、相続手続きを丸ごと代行することができます。つまり、相続財産に不動産が含まれる場合、司法書士に依頼すれば、手続きの大部分をワンストップで任せることが可能です。

費用相場は、遺産の内容や相続人の数によって異なりますが、手続き一式を代行する「遺産承継業務」で25万円~が一つの目安となります。

税理士:相続税の申告が必要な場合に必須

相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要になります。この相続税の申告は、税理士の独占業務です。

申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められており、期限を過ぎるとペナルティが課される可能性があるため注意が必要です。

費用は遺産総額に応じて変動するのが一般的で、遺産総額の0.5%~1.0%程度が目安とされています。当事務所では、相続税に強い税理士と緊密に連携しており、相続税申告が必要な場合でもスムーズにご紹介し、ワンストップで対応できる体制を整えています。

行政書士・弁護士・信託銀行との違い

その他の選択肢との違いも知っておきましょう。

  • 行政書士:戸籍収集や遺産分割協議書の作成は可能ですが、不動産の名義変更(登記申請)や預貯金の解約手続きを代理することはできません。そのため、別途司法書士に依頼する必要があります。
  • 弁護士:相続人同士で遺産の分け方を巡って争い(紛争)になってしまった場合に、代理人として交渉や調停・裁判を行える唯一の専門家です。トラブルがない段階で依頼すると、費用が割高になる可能性があります。
  • 信託銀行:遺産整理業務として手続き全般を代行してくれますが、司法書士や税理士に比べて費用がかなり高額になる傾向があります。最低報酬が100万円以上に設定されていることが一般的です。

これらのことから、相続トラブルがなく、不動産を含む遺産の手続きをまとめて任せたい場合には、司法書士が最も適した相談先と言えるでしょう。

後悔しないために。相続代行の専門家選びでよくある失敗と注意点

せっかく専門家に依頼したのに、「こんなはずじゃなかった…」と後悔するケースも残念ながら存在します。ここでは、専門家選びでよくある失敗例と、そうならないための注意点をご紹介します。

信頼できる専門家を見つけ、握手を交わす相続人。後悔しない専門家選びの重要性を象徴する写真。

失敗例1:追加料金が重なり、想定外の高額請求に

「相続手続き一式〇万円~」といった格安の広告を見て依頼したところ、後から「戸籍収集費用」「財産調査費用」「出張費」など、次々と追加料金を請求され、最終的に見積もりを大幅に超える金額になってしまった、というケースです。

【注意点】
依頼する前に、必ず総額での見積もりを提示してもらいましょう。そして、「どこまでの業務が料金に含まれていて、何が別料金になるのか」を具体的に確認することが重要です。料金体系について丁寧に説明し、書面で見積もりを出してくれる、誠実な事務所を選びましょう。

失敗例2:業務範囲が狭く、たらい回しにされた

「不動産の名義変更だけはやりますが、銀行の手続きはご自身でお願いします」というように、業務範囲が限定的な事務所に依頼してしまい、結局、他の手続きのために別の専門家を自分で探す羽目になった、という失敗例です。これでは「丸投げ」した意味がありません。

【注意点】
相談の段階で、相続手続き全体をワンストップでサポートしてくれるかを確認しましょう。特に、司法書士が提供する「遺産承継業務」は、手続き全般を包括的に代行するサービスです。また、相続税申告が必要になった場合に備え、税理士など他の専門家との連携体制が整っているかも確認しておくと安心です。

失敗例3:連絡が遅く、質問しづらい雰囲気だった

依頼したはいいものの、専門家からの進捗報告が全くなく、今どうなっているのか分からず不安な日々を過ごした、というケースです。また、「専門用語ばかりで説明が分かりにくい」「先生が忙しそうで、些細なことを質問しづらい」といったコミュニケーション不足も、不満や不信感に繋がります。

【注意点】
初回の無料相談などを活用して、担当してくれる専門家の人柄や話しやすさ、相性を確認することが非常に大切です。あなたの話を親身に聞いてくれるか、分かりやすい言葉で説明してくれるかを見極めましょう。また、連絡手段(電話、メール、LINEなど)が柔軟で、こまめに報告をくれる事務所を選ぶと、手続き完了まで安心して任せることができます。

いがり綜合事務所が「忙しいあなた」の相続手続きをまるごと代行します

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
相続手続きは、お忙しい現役世代の方が一人で乗り越えるには、あまりにも負担が大きいものです。

私たち、司法書士・行政書士・社会保険労務士 いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号/代表司法書士:猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属))は、神奈川県川崎市・横浜市を中心に、お忙しい皆様の相続手続きをサポートしています。

当事務所の主な特徴は以下のとおりです。

  • 代表司法書士が最後まで一貫対応:最初のご相談から手続き完了まで、代表である私、猪狩が責任をもって直接対応します。途中で担当が変わることはありません。
  • 夜間・土日祝日の相談に対応:お仕事で平日の日中にお時間が取れない方のために、平日19時や20時開始のご相談や、土日祝日のご相談にも柔軟に対応しています。
  • オンラインでの対応も万全:Zoomなどを活用したオンラインでのご相談も可能です。ご連絡もLINEやチャットワークなど、ご希望の方法でスピーディに行います。
  • 相続税にもワンストップで対応:相続税の申告が必要な場合は、当事務所が窓口となり、相続案件に精通した信頼できる税理士と連携して対応いたします。

何より大切にしているのは、あなたの不安な心に「安心」を届けること。そして、煩雑な手続きはすべて私たち専門家にお任せいただき、あなたは故人を偲ぶ大切な時間を取り戻していただくことです。

「何から始めればいいか分からない」「とりあえず話だけでも聞いてみたい」
どんな些細なことでも構いません。一人で抱え込まず、まずは当事務所の初回無料相談(60分程度)をご利用ください。有料サービスへの移行を無理におすすめすることは一切ございませんので、ご安心ください。あなたからのご連絡を、心よりお待ちしております。

まずは無料相談をご利用ください

公正証書遺言のデジタル化がスタート 変更点と注意点を専門家が解説

2025-10-14

【2025年10月1日開始】公正証書遺言のデジタル化とは?

「大切な家族のために、きちんと遺言書を残したい」とお考えの方にとって、とても重要な法改正のニュースです。2025年10月1日から、公正証書遺言の作成手続きがデジタル化されることになりました。

この変更により、これまで公証役場に直接出向いて行っていた手続きの一部が、ご自宅などからリモートで行えるようになります。

当事務所にも初めての方やデジタル機器に不慣れな方からの問い合わせが寄せられています。

この記事では、相続を専門とする司法書士が、公正証書遺言のデジタル化について、

  • いつから始まるのか?
  • 具体的に何がどう変わるのか?
  • どんなメリットや注意点があるのか?

といった疑問に、分かりやすくお答えしていきます。制度の概要を分かりやすく説明しますが、具体的な手続きや適用条件については公証役場の公式案内でご確認ください。

公正証書デジタル化の3つの主要な変更点

今回の法改正による大きな変更点は、主に次の3つです。これまでの手続きとどう変わるのか、ポイントをみていきましょう。

1. 自宅から作成可能に!リモート(ウェブ会議)方式の導入

最も大きな変更点は、公証人連合会が定める要件を満たすウェブ会議システムを用いて、リモートで公正証書遺言を作成できるようになったことです。

これまでは、遺言者ご本人と証人2名が必ず公証役場に出向く必要がありました。しかし今後は、インターネット環境とパソコン、カメラがあれば、ご自宅やご入所中の施設など、どこからでも手続きを進めることが可能になります。

私たち司法書士のような専門家から見ても、この変更は画期的です。例えば、お身体が不自由で外出が難しい方、遠方にお住まいで公証役場への移動が負担だった方など、これまで物理的な制約で遺言書作成を諦めていた方々にとって、非常に大きなメリットになると考えています。

2. 原本がデータになる!電子データでの作成・保管

これまでの公正証書は紙で作成され、その原本は公証役場で厳重に保管されていました。今回のデジタル化により、デジタル化により公正証書が電子的に作成・保管されることが原則となる場合があることになります。

これにより、紙の書類のように紛失したり、経年劣化したりするリスクがなくなります。また、遺言者にお渡しする「正本」や、相続手続きで必要になる「謄本」も、電子データで受け取ることができるようになり、管理がしやすくなるというメリットがあります。

作成された電子データは、関係機関のガイドラインに基づく情報管理・セキュリティ対策が講じられる予定ですが、具体的な運用・管理方法や想定されるリスクについては公証役場の案内や公的資料で確認してください。

3. ハンコは不要に!電子サインの利用

従来の公正証書遺言では、遺言者と証人が実印で押印し、印鑑証明書を提出する必要がありました。デジタル化後は、この実印と印鑑証明書の代わりに「電子サイン」が利用されます。

電子サインとは、公証人のパソコンの画面又は公証人のパソコンに接続されたペンタブレットにタッチペンで氏名を記載し、これを公正証書原本の所定の部分に画像として記録するものです。

ただ、「電子サインと言われても、やり方が分からない…」とご不安に思われる方も多いでしょう。無理にご自身で対応しようとせず、まずは専門家にご相談いただくのが安心です。

【ご安心ください】従来の対面での作成方法もなくなりません

「デジタル化は便利そうだけど、やっぱりパソコンは苦手…」「大切なことだから、直接公証人の先生と顔を合わせて話したい」

そのように感じられる方も、まったく心配はいりません。今回の法改正は、あくまで手続きの選択肢が増えるというものです。

これまで通り、公証役場に直接出向いて、公証人と対面で遺言書を作成する方法も、もちろん残ります。

もし、あなたが従来の対面方式を選ばれるのであれば、手続きの流れはこれまでとほとんど変わりません。紙ではなくタブレットに署名をする点以外、デジタル化は強制されるものではありませんので、ご自身が最も安心できる方法をお選びいただけます。

従来の対面方式も選択できることへの安心感を示す、落ち着いた雰囲気の高齢者の手の写真

デジタル化のメリットと注意すべき点(リスク)

新しいリモート方式を選ぶべきか、従来の対面方式を選ぶべきか、迷われる方もいらっしゃるでしょう。ここで、専門家の視点からそれぞれのメリットと注意点を整理してみます。

メリット:遺言書作成のハードルが下がる

デジタル化、特にリモート方式の導入には、以下のような大きなメリットがあります。

  • 場所を選ばずに作成できる: ご自宅や病院、施設など、どこからでも手続きが可能です。遠方にお住まいのお子様が、ウェブ会議に同席して内容を確認することも容易になります。
  • 手続の時間が短縮される可能性: 公証役場への移動時間がなくなるため、トータルの負担が軽減されます。
  • 書類管理が容易になる: 正本や謄本を電子データで受け取れるため、紙の書類のように保管場所に困ったり、紛失したりする心配が減ります。

特に、これまで遺言書作成のハードルとなっていた「移動」や「時間」の制約がなくなることで、より多くの方がご自身の想いを形にしやすくなるでしょう。

注意点:本人確認の厳格化とデジタル機器への対応

一方で、リモート方式を利用する際には、いくつか注意すべき点もあります。

・デジタル環境の準備: パソコンやスマートフォン、安定したインターネット回線、ウェブ会議システム(Teamsなど)の準備と、ある程度の操作に慣れていることが必要です。

IT機器の操作に少しでも不安がある場合は、無理にリモート方式を選ぶ必要はありません。ご自身の状況に合わせて、最適な方法を専門家と一緒に考えることが大切です。

【公式動画で確認】日本公証人連合会の解説が分かりやすい

今回のデジタル化について、日本公証人連合会が非常に分かりやすい解説動画を公開しています。

制度の全体像を正確に理解するために、まずは一度ご覧になることをお勧めします。公式の情報に触れることで、漠然とした不安が解消されることも多いはずです。

令和7年秋、公正証書の電子化がスタート!対面方式による電子公正証書の作成のポイントを解説

令和7年秋、公正証書の電子化がスタート!リモート方式による電子公正証書の作成手順

ただ、動画はあくまで一般的な説明です。「自分の場合はどうなるの?」「具体的に何から準備すればいい?」といった個別の疑問や、遺言内容そのものに関するお悩みは、動画だけでは解決が難しいかもしれません。そのような場合は、ぜひ私たちのような専門家にご相談ください。

手続きに不安な方は専門家への相談が安心です

公正証書遺言のデジタル化は、遺言書作成をより身近にする画期的な改正です。しかし、選択肢が増えたことで、かえって「どの方法が自分にとって一番良いのだろう?」と迷ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。

特に、遺言はご自身の財産とご家族の将来に関わる、非常に大切な手続きです。手続きの方法で悩むだけでなく、肝心の遺言内容がご自身の想いを正確に反映したものでなければ意味がありません。

「何から始めたらいいかわからない」「自分に合った方法を教えてほしい」
もし少しでもご不安があれば、ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。

いがり円満相続相談室の無料相談はこちら

いがり綜合事務所に依頼できること

当事務所にご相談いただければ、司法書士・行政書士が以下のようなサポートをワンストップでご提供します。

  • ご家族への想いを形にするための遺言内容コンサルティング
  • あなたに最適な遺言作成方式のご提案(対面orリモート)
  • 公証役場との事前打ち合わせの代行
  • リモート手続きの際のパソコン操作サポート
  • 証人の手配を支援します(ただし、証人の同意取得や本人確認等の必要手続きは所定の手順に従います)
  • 遺言作成後の財産の名義変更手続き(相続登記など)

私たちは、単に手続きを代行するだけでなく、ご相談に対して誠意をもって対応します。具体的な手続きや見通しについては個別にご説明します。どうぞお気軽にお問い合わせください。

換価分割の手続きと流れ|税金・社会保険料への影響も解説

2025-10-13

相続不動産を売却して分ける「換価分割」とは?

「親が遺した実家を、きょうだいでどうやって公平に分けたらいいんだろう…」
「相続人が多くて、不動産をそのまま分けるのは難しそう…」

ご相続に直面された多くの方が、このような悩みを抱えていらっしゃいます。特に不動産は、物理的に分割するのが難しい財産の代表例です。そんなとき、有効な選択肢の一つとなるのが「換価分割(かんかぶんかつ)」という方法です。

換価分割とは、相続した不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人間で分け合う方法のことです。物理的に分けられない不動産も、現金にすることで1円単位で公平に分割できるため、相続人間のトラブルを防ぎやすいという大きなメリットがあります。

しかし、手続きが少し複雑で、売却によって得た利益には税金がかかります。さらに、あまり知られていませんが、翌年の社会保険料(国民健康保険料など)に影響が出る可能性もあるため、注意が必要です。

この記事では、相続専門の司法書士・行政書士・社会保険労務士が、換価分割の基本的な知識から、具体的な手続きの流れ、税金や社会保険料への影響まで、網羅的に分かりやすく解説します。この記事を読めば、換価分割の全体像を掴み、ご自身の状況に合った最適な選択をするための知識が身につくはずです。どうぞ安心して読み進めてください。

天秤に乗った家の模型と現金が釣り合っており、不動産を現金化して公平に分ける換価分割の概念を象徴している。

他の遺産分割方法との違い(現物分割・代償分割)

換価分割の理解を深めるために、他の遺産分割方法と比較してみましょう。遺産分割には主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3つの方法があります。

分割方法内容メリットデメリット
現物分割遺産をそのままの形で分ける方法(例:長男が土地、次男が預貯金)手続きがシンプル公平に分けるのが難しい。不動産は分けられない
代償分割特定の相続人が遺産を取得する代わりに、他の相続人に「代償金」を支払う方法不動産を売却せずに済む遺産を取得する人に十分な資金力が必要
換価分割遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人で分ける方法公平に分けられる。納税資金を確保できる売却の手間と税金がかかる。社会保険料に影響する場合がある
遺産分割方法の比較

どの方法が最適かは、遺産の内容や相続人の状況によって異なります。特に「代償分割」は、不動産を相続する方に十分な自己資金があれば有効な方法です。後の章で詳しく解説しますが、この代償分割で支払われる「代償金」は所得とはみなされないため、社会保険料に影響が出ないという特徴があります。

換価分割のメリット・デメリットを専門家が解説

換価分割を進めるべきかどうかを判断するために、そのメリットとデメリットを正しく理解しておくことが大切です。ここでは、専門家の視点からそれぞれのポイントを詳しく解説します。

メリット:公平な分割と納税資金の確保

換価分割の最大のメリットは、何といっても「公平性」です。
不動産を現物で分けようとすると、「兄がもらう土地の方が価値が高いのではないか」といった評価額をめぐるトラブルが起きがちです。しかし、不動産を売却して現金に換えれば、1円単位で明確に分けられるため、相続人間の不公平感をなくし、円満な解決につながりやすくなります。

また、「納税資金の確保」という実用的なメリットも見逃せません。相続税は原則として現金で、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に納付する必要があります。手元に現金が少ない場合でも、不動産を売却して得たお金を相続税の支払いに充てることができます。

デメリット:税金の発生と売却の手間

一方で、換価分割には注意すべき点もあります。
最も大きなデメリットは、「税金の発生」です。不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税」が課税されます。相続税とは別に発生する税金なので、事前にどのくらいの税金がかかるのかを把握しておく必要があります。

さらに、「売却の手間と時間」も考慮しなければなりません。信頼できる不動産会社を探し、査定を依頼し、売買契約を結び、引き渡しを行う…という一連のプロセスには、数ヶ月単位の時間がかかるのが一般的です。また、必ずしも希望する価格や時期に売れるとは限らないという不確実性も伴います。

換価分割の全手順を5ステップで徹底ガイド

「換価分割が良さそうだけど、具体的に何から始めればいいの?」という方のために、ここからは手続きの全体像を5つのステップに分けて解説します。

換価分割の5つのステップ(遺産分割協議、協議書作成、相続登記、売却、確定申告)をアイコンで示した分かりやすいフローチャート。

ステップ1:相続人全員で換価分割に合意する(遺産分割協議)

すべての手続きの出発点は、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)です。遺産をどのように分けるかは、相続人全員の合意がなければ決定できません。一人でも「売りたくない」という方がいれば、換価分割を進めることはできません。

まずは、なぜ換価分割が最善と考えるのかを丁寧に説明し、全員の納得を得ることが重要です。もし話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所での調停や審判といった手続きに移行することになります。

ステップ2:遺産分割協議書を作成する【書き方と注意点】

相続人全員の合意が得られたら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。この書類は、後の相続登記や税務申告で必要となる非常に重要なものです。

換価分割の場合、遺産分割協議書には以下の2点を必ず明記してください。

  • 不動産を売却して、その代金を分割する「換価分割」を行う旨
  • 売却代金の具体的な「分配割合」(例:長男Aが2分の1、次男Bが2分の1)

これらの記載がないと、税務署から「代表者がいったん不動産をすべて相続し、他の相続人にお金を贈与した」とみなされ、思わぬ贈与税が課されるリスクがあります。専門家が作成する際は、必ずこれらの点を盛り込みます。

【記載例】
相続人全員は、下記不動産を換価分割することに合意し、相続人〇〇〇〇(代表者名)がこれを取得する。不動産の売却代金から諸費用を控除した残額を、下記の割合で分配する。
・相続人 〇〇 〇〇:2分の1
・相続人 △△ △△:2分の1

ステップ3:不動産の名義変更(相続登記)を行う

遺産分割協議書が完成したら、次はその内容に基づいて法務局で不動産の名義変更(相続登記)の手続きを行います。亡くなった方の名義のままでは不動産を売却できないため、この相続登記は必須です。

登記の方法には、主に2つのパターンがあります。

  1. 相続人全員の共有名義にする(共同登記)
    法定相続分や遺産分割協議で決めた持分割合で、全員の名義に登記する方法です。公平性は高いですが、売却手続き(売買契約など)の際に相続人全員の実印や印鑑証明書が必要となり、手続きが煩雑になるデメリットがあります。
  2. 代表者一人の名義にする(単独登記)
    遺産分割協議で代表者を一人決め、その方の名義に登記する方法です。売却手続きは代表者一人が窓口となって進められるため、他の相続人の手間が大幅に省け、スムーズに手続きが進みます。実務上はこちらの方法が選択されることが多いです。

ステップ4&5:不動産売却と代金分配・確定申告

相続登記が完了し、不動産の名義が相続人に移ったら、いよいよ不動産会社に仲介を依頼して売却活動を開始します。買主が見つかり、売買契約、決済・引き渡しが完了すると、売却代金が支払われます。

受け取った売却代金から、不動産会社の仲介手数料や登記費用などの諸経費を差し引いた金額を、遺産分割協議書で定めた分配割合に従って、各相続人に分配します。

そして最後に、不動産を売却して利益が出た相続人は、売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に、各自で確定申告を行い、譲渡所得税を納税する必要があります。これで換価分割の一連の手続きは完了です。

【税金】換価分割で注意すべき譲渡所得税と贈与税のリスク

換価分割を検討する上で、税金の問題は避けられません。特に「譲渡所得税」と、手続きを誤った場合の「贈与税」のリスクについて、正しく理解しておきましょう。

売却益にかかる「譲渡所得税」の計算方法と税率

譲渡所得税は、不動産を売却して得た「利益」に対してかかる税金です。計算式は以下の通りです。

譲渡所得 = 売却価格 ー (取得費 + 譲渡費用)

  • 取得費:その不動産を被相続人(亡くなった方)が購入したときの代金や手数料など。
  • 譲渡費用:売却にかかった仲介手数料や登記費用など。

相続した不動産の場合、注意が必要なのは「取得費」です。被相続人がいつ、いくらでその不動産を買ったかが分かる売買契約書などがあれば、その金額を使えます。しかし、古くからの土地などで取得費が不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することができます。

計算された譲渡所得に、所有期間に応じた税率をかけて税額が決まります。

所有期間(被相続人の所有期間を引き継ぐ)区分税率(所得税+住民税+復興特別所得税)
5年以下短期譲渡所得39.63%
5年超長期譲渡所得20.315%

なお、被相続人が住んでいた家を売却する場合など、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例(空き家の3,000万円特別控除)を使える可能性があります。この特例が使えるかどうかで納税額は大きく変わりますので、専門家への確認をおすすめします。

手続きを間違うと発生する「贈与税」のリスクとは?

換価分割で最も避けたいのが、予期せぬ「贈与税」の発生です。
特に、手続きをスムーズにするために代表者一人の名義(単独登記)で売却した場合に、このリスクが生じます。

もし、遺産分割協議書に「換価分割を目的とすること」や「代金の分配割合」が明記されていないと、税務署は次のように解釈する可能性があります。

「この不動産は、いったん代表者が単独で相続した。その後、売却代金を他の相続人に渡したのは、代表者から他の相続人への『贈与』である。」

このように判断されると、お金を受け取った他の相続人に高額な贈与税が課されてしまうのです。これを防ぐためにも、「換価分割であること」を明確に記載した遺産分割協議書の作成が、法務・税務の両面から極めて重要になります。

参考:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)

【社会保険料】換価分割が国民健康保険料に与える影響と注意点

税金と並んで、多くの方が見落としがちなのが「社会保険料」への影響です。特に、自営業の方やご高齢の方が相続人にいる場合、換価分割によって翌年の社会保険料が大幅に上がってしまう可能性があります。

国民健康保険証と電卓を見ながら、保険料の上昇を心配する高齢男性。換価分割による社会保険料への影響を示唆している。

なぜ換価分割で社会保険料が上がるのか?その仕組みを解説

国民健康保険料や後期高齢者医療保険料(75歳以上の方)は、前年1年間の「総所得金額等」を基に計算されます。一般に、不動産を売却して得た譲渡所得もこの算定基礎に含まれるため、保険料に影響を与えることがあります。ただし、実際の保険料への反映方法は、お住まいの自治体の計算方法や、適用される税制特例(例:3,000万円の特別控除など)、確定申告の結果によって異なりますので、事前に自治体窓口や税理士・社会保険労務士にご確認ください。

会社員と自営業者・高齢者で影響は異なる

この影響は、相続人が加入している公的医療保険の種類によって異なります。

  • 会社員の方(協会けんぽ・組合健保など)
    会社員の健康保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)を基に決まります。そのため、不動産の譲渡所得がいくらあっても、原則として翌年の健康保険料には影響しません。
  • 自営業者・フリーランスの方(国民健康保険)
    前年の所得に直接連動して保険料が決まるため、影響を大きく受けます。自治体によっては年間の上限額が設定されていますが、上限に達するほどの負担増になるケースも少なくありません。
  • 75歳以上の方(後期高齢者医療保険)
    国民健康保険と同様に、前年の所得に応じて保険料が決まるため、影響を大きく受けます。また、所得が増えることで、病院での窓口負担割合が1割から2割に上がる可能性もあります。

対策は?代償分割なら社会保険料への影響を回避できる

もし、相続人の中に自営業の方やご高齢の方がいて、社会保険料の負担増が懸念される場合、対策はあるのでしょうか。

その一つの解決策が、冒頭でご紹介した「代償分割」です。
例えば、相続人の一人が不動産を相続し、その代わりに他の相続人へ自己資金から「代償金」を支払う方法です。この代償金は、適切に作成された遺産分割協議書に基づいている場合、通常は受け取った方の所得とはみなされず、社会保険料の算定基礎に含まれないことが多いです。ただし、遺産分割の内容や書面の記載、税務署の判断によっては取り扱いが変わる可能性もあるため、事前に税理士や社会保険労務士へご相談ください。

不動産を相続する方に十分な資金力が必要という条件はありますが、税金だけでなく社会保険料という「隠れたコスト」まで含めて総合的に判断すると、代償分割が有利になるケースもあります。どの分割方法が最適か、専門家と相談しながら慎重に検討することが大切です。

【事例】遠方の相続人がいても換価分割をスムーズに進めたケース

ここで、当事務所で実際にサポートさせていただいた事例を、個人が特定されないよう内容を一部変更・要約してご紹介します。

ご相談に来られたのは、亡くなったおじ様の相続人である甥の方でした。被相続人は生涯独身で、法定相続人はきょうだい4人と、先に亡くなっていたきょうだいの子供である甥姪5人の、合計9名にものぼる複雑な状況でした。

【Challenge(直面していた課題)】
主な遺産は都内のマンションでしたが、相続人9名のうち半数以上が遠方にお住まいでした。「誰も住む予定がないので、マンションを売却して公平に分けたいが、全員が手続きのたびに集まるのは現実的に不可能。どうすればスムーズに進められるか」というのが、ご相談者様の最大の悩みでした。

【Solution/Action(取った行動と戦略)】
私たちは、このようなケースで最もスムーズな方法として、「代表相続人を一人決めて単独名義に登記し、その方が売却手続きを進める」という換価分割をご提案しました。相続人全員の共有名義にしてしまうと、売買契約や引き渡しの際に全員の立ち会いが必要となり、遠方の方がいる場合は非常に困難になるからです。

当事務所で遺産分割協議書を作成し、遠方にお住まいの相続人様には郵送で書類のやり取りを行いました。皆様にご署名と実印の押印をいただき、無事に代表者様への単独名義での相続登記を完了させました。

【Result(得られた結果)】
その後、代表者様が窓口となり、不動産会社とのやり取りや売買契約を進め、スムーズに売却が完了。売却代金は、遺産分割協議書で定めた割合通りに、各相続人様の口座へ送金されました。遠方にお住まいの方々も、一度もこちらへお越しいただくことなく、すべての手続きを終えることができました。

【Expert Insight(専門家の考察)】
いわゆる「おひとり様」の相続では、ご自宅が空き家となり、売却ニーズが高まる傾向にあります。今回のケースのように相続人が多数かつ遠方にいる場合、代表相続人の単独名義で換価分割を進める方法は非常に有効です。なお、売却で利益が出たため、提携する税理士をご紹介し、相続人全員の譲渡所得税の申告も無事に完了しました。法務・税務の両面からサポートすることで、複雑な案件も円満に解決へと導くことができました。

換価分割のお悩みは、相続の専門家にご相談ください

ここまでご覧いただいたように、換価分割は遺産である不動産を公平に分けるための有効な手段です。しかし、その手続きは遺産分割協議から相続登記、売却、そして税金の申告、さらには社会保険料への影響まで、非常に多岐にわたる専門知識が求められます。

特に、税務上のリスクを回避するための遺産分割協議書の作成や、ご自身の状況に合わせた最適な分割方法の選択は、専門家のサポートなしでは難しいのが実情です。

「自分たちの場合は、どの方法が一番いいんだろう?」
「手続きが複雑で、何から手をつけていいか分からない…」

もし少しでもご不安を感じたら、どうか一人で悩まずに、私たち相続の専門家にご相談ください。司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号/代表:司法書士 猪狩 佳亮/所属:神奈川県司法書士会)は、3つの資格を活かし、不動産の名義変更から、税金、社会保険料の問題まで、ワンストップで皆様をサポートいたします。

私たちは、皆様のお心に寄り添い、誠実な対応で円満な相続の実現に向けて全力で業務に取り組みます。まずはお気軽にお話をお聞かせください。

いがり円満相続相談室へのお問い合わせはこちら

相続人の中に未成年者がいる場合

2022-10-30

未成年者は遺産分割協議に参加できるか?

 上のイラストを見てください。
 お父さんが若くして亡くなってしまい、遺されたのは妻と子ども、というケースです。この場合、法定相続人となるのは配偶者であるお母さん(故人の妻)と、ひとり息子の2人ですね。

 さて、今回のケースでは遺言書がありませんでした。遺言書がない場合、相続人全員の遺産分割協議によって財産の分け方を決めます。そうすると、このケースでは、お母さん(妻)と息子が協議をして財産の分け方を決めることになりそうです。

 ただ、相続人の息子は12才、すなわち未成年です。実は、法律では、未成年者は、単独で法律行為(遺産分割協議など)ができない ことになっています。民法という法律では、未成年者が法律行為をするには、原則として、法定代理人(一般的には、親権者である親)が代理して行うことになっています。

 そうすると、「お母さんと息子が協議」と言っても、親権者であるお母さんが、息子の代理人として遺産分割協議をする(つまり、結果的に、お母さん1人だけで遺産分割協議をする)ことになりそうですが、それでいいのでしょうか?

 実は、この場合、お母さんが子どもを代理することができません。 なぜかと言うと、この遺産分割協議について、お母さんが公平になれないからです(このことを、利益相反といいます)。

相続人が未成年の場合の遺産分割協議の方法

 相続人の中に未成年者がいる場合、家庭裁判所で「特別代理人」を選任することになります。特別代理人とは、未成年者(ひとり息子)の代理人になる人です。

 お母さんが公平になれないのだから、公平な立場でお母さんと協議ができる第三者を、家庭裁判所が代理人として選びます。 とはいっても、おじさんやおばさん、おじいちゃんやおばあちゃんなど、相続人でない、利害関係のない親戚であれば、この「特別代理人」になることが可能です。実務的にもそのようなケースが多いです。もちろん、我々のような専門家が特別代理人になることもあります。

家庭裁判所への申立てのポイント

 特別代理人を選任してもらうには、家庭裁判所に申立書を提出します。
 申立書には遺産分割協議書の文案(署名捺印していないもの)を添付し、その内容が不公平で無いことを裁判所に確認してもらいます。

 そして、原則として、未成年者に法定相続分(上のケースでは、2分の1)以上の財産を相続する内容ないと、受理されません。これが柔軟な相続という観点からは、すこし厄介です。

 申立から特別代理人の選任までは、通常2週間~1か月ほどかかります。裁判所から調査のアンケートが送られてきて回答しなければならないなど、結構面倒です。

遺言書があれば、家庭裁判所の手続きは不要

 相続人に未成年者がいる場合でも、遺言書があれば、上記のような家庭裁判所での手続きは不要です。それは、遺言書がある場合は、遺言書の内容どおりに遺産を分けるからです。遺産分割協議をしないのですから、協議をするための特別代理人はいらないのです。時間もかからないし、裁判所との面倒なやり取りをする必要もありません。未成年者が相続人になることが見込まれる場合、遺言書を作成しておくことが有効な対策になります。
 実務的に多いのは、相続対策として、未成年の孫と祖父・祖母が養子縁組するケースです。この場合、養子も法定相続人になります。相続対策が必要なケースですから、相続税の申告期限(10ヶ月)のことを考えると、少しでも早く手続きを進めたいはずです。遺言書作成が、スムーズかつスピーディな相続手続きを実現してくれることでしょう。

相続放棄した後の注意点

2022-05-20

 相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)が多額の借金をしているような場合に、その負債を引き継がないようにするための制度です。相続放棄をすると、もともと相続人でなかったものとみなされます。手続きについては詳しくは別の記事でご説明していますが、家庭裁判所に書類を提出する方法で行います。

 その相続放棄について、ちょっと注意してほしいケースがありますので、ご説明したいと思います。

子ども全員が相続放棄したケース

 上の事例を見てください。

 相続放棄をした人は「最初から相続人でなかった(=いなかった)」ものとみなされる、というのが法律のルールです。 上の事例でいうと、「相続放棄をした子ども全員が、最初から相続人でなかった」、つまり「被相続人には子どもがいなかった」とみなされることになります。

 問題はここからです。被相続人に子どもがおらず、かつ両親もすでに亡くなっている場合、第3順位である兄弟姉妹が法定相続人になります。 そうすると、被相続人の借金については、何もしないと兄弟姉妹の方が相続し、支払う義務を負うことになってしまうのです!

兄弟姉妹も、あわてずに相続放棄の手続きをすれば大丈夫

 このような場合、兄弟姉妹の方も相続放棄してしまえば、同じように負債を相続することは無く、借金等の支払いはしなくてすみます。

 そして、この兄弟姉妹の方については、「(先順位の)子ども全員が相続放棄をしたことを知ってから」3ヶ月以内であれば、何の問題もなく相続放棄ができます。亡くなってから3ヶ月ではありませんので、落ち着いて相続放棄の手続きをすれば大丈夫です。

 このように、先順位者の相続放棄には要注意です。「自分は第3順位だから、相続放棄なんて関係ないよね~」と放置していると、場合によってはとんでもない結果になりかねませんので、ご注意ください。

相続放棄をしたら、知らせてあげるのがエチケット

 被相続人の兄弟姉妹としては、被相続人の子ども(兄弟姉妹から見れば、おい・めい)が相続放棄をしたかどうかは、聞かなければ分からないですよね。子どもが相続放棄の手続きをした1年後の法要(一周忌)のときに、親戚である被相続人の兄弟姉妹に初めて相続放棄の話をした、なんてことになると、ちょっとドキッとしてしまうかもしれません。その後に相続放棄の手続きをするにしても、手続きが煩雑になる恐れもあります。

 なので、相続放棄をした先順位の方(上の例では、子ども)は、後順位の方(上の例では、兄弟姉妹)に、相続放棄をしたことを知らせてあげると親切かもしれません。
 当事務所では、相続放棄の手続きを依頼いただいた場合、後順位の相続人に対してお知らせするサービスをしていますので、よろしければご活用ください。

外国に住む相続人がいる場合の相続手続きの方法①

2022-05-13

 転勤による海外勤務や、外国人との結婚、あるいは移住などによって、日本人の方が海外にお住いのケースがあります。最近、相続人の方が外国在住というご相談が立て続けにあり、日本と異なる制度に戸惑う方が多くいらっしゃいました。当事務所ではよく取り扱うケースなのですが、通常の相続手続きと少し異なる点があるため、まとめてご説明したいと思います。

ほとんどの国には「印鑑証明書」の制度はない

 一般的な相続手続きでは、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が「実印」を捺印します。また、不動産の相続登記や銀行・証券会社などさまざまな相続手続きにおいて、相続人の「印鑑証明書」を提出する必要があります。

 ところが、一部の国を除いて、外国では基本的に「実印」という概念はないし、「印鑑証明書」という書類も存在しません。印鑑の文化というのは、日本特有のものとも言えます。

日本領事館などで署名証明書を取得する

 印鑑証明書に代わるものとして、「署名証明書(サイン証明書)」という制度があります。日本人であれば、現地にある日本領事館、あるいは公証役場などに行って、「このサインは本人のものに間違いありません」という証明書を発行してもらうことができます。

 外国はサイン文化ですから、言われてみればそうかな、という気がしますよね。
 参考までに、アメリカのロサンゼルス日本領事館の例を以下にリンクを張っておきますが、お住まいの地域の日本領事館のホームページを見ると、同様の情報が得られると思います。 申請書の記入例や必要書類、手数料などについても書かれています。

 署名(および拇印)証明(在ロサンゼルス日本国総領事館HPより)

署名証明書には2種類ある

 ここからは、ちょっと混み入った話をします(詳しいことは、ご相談いただく際に説明しますので、よく分からなければ読み飛ばしてください)。

 上記のLA日本領事館のホームページにも書いてありますが、サイン証明書には、いわゆる「貼付型」と「単独型」の2種類があります。

1 貼付型

 遺産分割協議書など、署名証明が必要な書類を領事館等に持参します。

 その書類に、領事館等の職員がいる目の前で署名拇印します。

 すると、その書類(遺産分割協議書など)と署名証明書の2通をホッチキス留めし、領事館の公印で本人の署名であることの証明書として発行してもらえます。

2 単独型

 日本の印鑑証明書に近いイメージです。印鑑の代わりに本人の署名がされ、その署名について「本人がサインに間違いない」旨の領事館の証明がなされます。

 きわめて大雑把な言い方になりますが、印鑑証明書の印影の部分が、署名(サイン)になっている、と思ってください(実際の様式はちょっと違いますが)。

 「単独型」を利用する場合、役所や銀行には署名証明書と遺産分割協議書の合計2通の書類を提出し、遺産分割協議書などの筆跡と、署名証明書の筆跡が同一人のものであるかどうかを審査することになります。

 遺産分割協議書などに署名する際には、署名証明書の筆跡となるべく似せて署名する必要があるので、ちょっと注意が必要になります。 印鑑の場合と違って、人間がするサインというのは、毎回毎回おなじように書けるわけではありませんよね。体調や、丁寧に書くか雑に書くか、などの事情で、筆跡が多少変わってきます。もし同一人が書いたサインでも、あまりに筆跡が違うとなると、「この遺産分割協議書のサイン、他人がなりすまして書いたんじゃないの?」という疑義が生じることになりかねません。 なので、「単独型」の場合には、なるべくでいいので、筆跡をサイン証明書のものと似せて書いてください。

まとめ

 相続人が外国に住んでいる場合の相続手続きについてご説明してきました。

 ・印鑑証明書の代わりに「署名証明書」を取得する
 ・署名証明書は、現地の領事館や公証役場で取得できる
 ・署名証明書には単独型と貼付型の2種類がある。単独型の場合は筆跡に注意

 これまで署名証明書を取得されたお客様のお話を聞くと、領事館が遠方にしかなくて片道2時間かかったなど、取得するには一苦労のようです。日本のようにコンビニで印鑑証明書を取得できることを考えると、少し不便、また取得するのに時間がかかるかもしれません。

 当事務所では、このようなケースも多く経験しておりますので、ご自身の状況にあてはまる方がいらっしゃいましたら、お気軽に当事務所の無料相談をご利用いただければと思います。

 

 

 

法定相続人とは?図を使って分かりやすく解説②(代襲相続編)

2022-05-07

 被相続人に子どもがいたが、その子どもが先に亡くなっている場合は、法定相続人の決め方に注意が必要な場合があります。事例を交えながらご説明していきたいと思います。

【ケース1】被相続人の子が先に亡くなっている場合

 このたびお父さんが亡くなったのですが、法定相続人となるはずだった長男が、実はお父さんより先に亡くなっている、という例です。亡くなった長男には、妻とひとり息子(被相続人の孫)がいました。

 この場合、長男が相続すべきだった権利(相続人の地位)は、孫に引き継がれます。 このことを「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」、相続人となる孫のことを「代襲相続人」といいます。

 前回のコラムで「子どもがいない場合は第2順位の親が法定相続人」とご説明しましたが、この「子どもがいない場合」というのは、「生涯子どもがいなかった場合」のことを指しています。

 「かつて子供はいたけど先立たれて、相続の時に子どもはいなかった」という上図のようなケースでは、(代襲相続する)孫がいれば、第2順位、第3順位には進みません。

 ちなみに、上のケースでは、亡くなった長男の妻は相続人になりません(代襲相続しません)。ちょっとややこしいですね。

【ケース2】相続人となるべききょうだいが既に亡くなっている場合

 代襲相続は、第3順位の相続の場合(兄弟姉妹が相続人になる場合)にも起こり得ます。

 上の図を見てください。子どものいない夫婦の夫が亡くなりました。法定相続人は本来、第3順位の兄弟姉妹ですが、その兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていました。

 この場合、法定相続人となるべきだった兄弟姉妹の子、つまり被相続人のおい、めいが代襲相続人になります

 この【ケース2】のような事例は、【ケース1】(孫が代襲相続する例)よりも、現実には多いと思います。兄弟姉妹は年齢が近いので、先に亡くなっているケースも十分あり得るからです。

 そして、おい、めいが相続人となる場合、結果として相続人の人数が増え、遺産分割協議をまとめるのがなかなか難しくなります。疎遠な場合や相続人が遠方にお住いの場合はなおさらです。

疎遠、ご遠方の相続人への連絡代行もお任せください

 上の【ケース2】のような事例では、遺言書がないと相続人間での遺産分割協議になり、疎遠あるいは遠方の相続人と連絡を取るのも一苦労かもしれません。

 当事務所では、このようなケースでも相続人への連絡を代行したり、遺産分割協議の中立な調整役を務めることが可能です。当事者同士だと相続の話を切り出すのが難しくても、司法書士のような第三者を間に入れるとスムーズに話が進む可能性は比較的高いといえます(当事務所で扱った事例、別のコラムで後日ご紹介したいと思います)。

 普段あまりお付き合いのない親族へ、いきなり相続のことで連絡するのをためらわれている方は、お気軽に当事務所の無料相談でご相談いただければと思います。

 

« Older Entries Newer Entries »

keyboard_arrow_up

0447426194 問い合わせバナー 無料法律相談について